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夜想
「きれいなお兄さん、ちょっといい?」 きれいなお兄さんと声をかけられたら相手にするのが道理。 真田一輝は往来の真ん中で足を止め、肩越しにふりかえった。周りにいた数人は、流れを止めた障害物に迷惑顔で通り過ぎていく。 深夜の街は、仕事帰りの会社員や時間を持て余した子供ばかりで、今回は後者。おもしろいほど対照的な2人組だ。 一輝を振り向かせることに成功した娘は、女になりきれないのを隠す典型的なタイプ。必要以上に振りかけたコロンと、童顔を隠すにはきついメイク、その上、限界まで見せている足は少々がに股だ。ヒョウ柄ハイヒールには、さすがの一輝も笑いそうになる。 隣で怯えている娘は年相応タイプ。淡い色のワンピースで、指輪すらしていない。どうしてここにいるのか疑問に感じるほど清楚で、実に好感が持てる――最適だ。 一輝は彼女と出会ったことを純粋に嬉しく感じ、自然に笑みがこぼれた。少女2人はそれを見て頬を赤らめ、十代ならではの幼さを見せる。 「なにか」 「あたし達も一緒に行っていい?」 「ねえ、こんな事やめようよ。こんなにカッコイイ人、彼女いるに決まってるってば。もう遅いし、お母さんに怒られちゃうよ。もういいから、早く帰ろ」 積極的な友達を引き留める娘の仕草に、一輝は苦笑する。 子供がいたずらを止めているようで、なんとも素朴で可愛らしい。 どうやら自分の目は正しいようだ。尚更この機会を逃すわけにいかない。 「かまいませんよ。時間が空いてしまって、かえって丁度良かった所です」 「じゃあ、良いって事だよね!」 「そうなんですか」 派手なほうはあからさまに喜び、おとなしいほうは警戒の色を見せながらも、おずおずと確認する。 一輝はふたりに頷いて、チケットでも出すようにポケットをまさぐる。 その時ポケットから、あらかじめ入れておいた小銭が落ちた。 案の定、娘達は慌てて拾おうとする。ナンパした男の気を少しでも惹こうとするように。 一輝も身をかがめると、さりげなくワンピースの娘に近づいた。 白く細い手首を、蝶でもつかまえるようにやさしく捕らえる。 「……あ」 彼女は思いもよらない幸運に頬を紅潮させ、目は潤んでいた。 が、それは間もなくかき消え、なにかに気づいたように不安の色を浮かべる。 追われた小動物が見せる、本能的に身の危険を悟った目だ。 一輝は心でほくそ笑み、みるみる蒼ざめていく彼女を愛おしげに見守る。 手が触れた瞬間から、一輝は彼女の生気(エナジー)を吸い始めていたのだ。 思っていた通りだ。餌に適している。 彼女の生気は違和感なく肌に馴染み、風に包まれるように体に染み通っていく。 一輝は新鮮な生気をまとう心地良さに、全身が総毛立つのを感じた。 「なにやってるのよ!」 残りの娘が嫉妬丸出しの怒声を浴びせた。 同時に感覚は分断され、生気を失った彼女は地面に崩れる。 「あっ、大丈夫ですか?!」 一輝は驚いたようにみせつつ、娘を抱きかかえる。人は生気を吸われると貧血状態に陥るのだ。 気絶した娘の蒼白さに、怒鳴ったほうも動揺する。 「ちょっと、どうしたの?!」 「貧血のようですね。すこし休めば大丈夫でしょう」 馴染みやすかったためか、少々吸い過ぎたようだ。 一輝は娘を軽々と抱き上げ、側のベンチに座らせる。普段は持てない重さでも、生気を使えば筋力も上がる。実際、少女の重さはほとんど感じなかった。 「ちょっとジュースでも買ってきます。ここで待っていてください」 おろおろする娘の返事を待たず、一輝はそこを離れてスクランブル交差点に向かう。 すでに娘の顔は忘れ、もうひとりくらいいいだろう、と紫の瞳は次の獲物を探している。 狩りは始まったばかりだ。 週に一度だけ、夜の散歩をする。吸血鬼の自分には必要不可欠な‘食事’のためだ。 吸血鬼といっても噛みつく事はなく、指先から人間の生気(エナジー)を吸う。吸われた人間は仲間になることもゾンビを作ることもなく、立ちくらみを少々覚える。ただし、全生気を吸われれば死に至る。 自分は人間を餌にして生きる、闇の種族に過ぎない。あとは少しばかり長命なだけ。物心ついた時は200年も前だ。 以前は2人分の生気も吸えば満足し、その度に出る死体はそこらに捨てていた。 しかし、ある時から餌を殺さないようにセーブし、4,5人が貧血で倒れるていどに治まっている。 食事に時間をかけるなど、わざわざ非合理的な方法を選んだことにはわけがある。 「殺したりするわけじゃ、ないんだろ?」 居候先の住人で、髪を操る高校生、常川直人は怪訝顔で言った。 赤い髪という派手な成りのくせに、その表情は淋しげに曇る。しかたないけどしてほしくない、という責めない目。 「殺したら駄目か?」 聞き返す一輝に、直人はいきり立った。思春期の激しい感情は髪にも伝わり、怒りをもって一輝を食らおうと動く。 「駄目に決まってるだろっ。間違っても駄目だからな。それが嫌ならもう帰ってくんな」 「……しかたない。奏(かなえ)さんの作る料理は美味いしな。あの秀逸な味にありつけなくなるのは惜しい」 髪を払いのけながら渋々言う一輝に、直人はうれしそうに頷いた。打って変わってやさしくうねる髪が、直人の喜びを物語っている。 実際、直人の姉が作る料理は舌に合う。でも、本当はそれだけじゃなかった。 帰ってくんな。 言われて、なぜか胸が締めつけられた。 以前の自分なら一笑に伏して、家を出ていっただろう。 それなのに直人の言葉は、小さくとも重い塊となって、いつまでも心に残っている。 本来だったら、なんのためらいもなく全生気を吸っていた。今まで男女問わずさまざまな居候先を渡り歩いてきたが、どこでも一目置かれていた。畏怖と羨望を一身に浴びる環境は、餌を狩る者として当然だと思っていた。 ところが、現在の居候宅である常川姉弟には、そういったことが一切無い。 直人の姉、奏が経営する喫茶グリーンフォレストは、様々な鉢植えがあふれる小さな店だ。奏の美しい容姿はもちろんのこと、彼女の料理と穏やかな雰囲気に惹かれてか、常に客が居る。 自分が店員として駆り出されるのは仕方ないが、仕入れ時、荷物持ちとして扱われるとは思わなかった。異端を異端と思わないのは、なにも弟の能力を見ているせいだけではないらしい。 店を閉めたあとも休む暇がない。夜ともなれば、姉弟からちょっとした遊びに誘われる始末。ポーカーで勝ちまくった一輝に対して、今度はオセロだと息巻いている直人がおもしろかった。 奏からのさりげない気遣いや、直人の時々見せる鋭い指摘も、不思議と心に浸透して、過去の自分が包まれていくように思えてならない。その証拠に、最初は戸惑っていた自分が、今では現状を楽しんでいる。 笑う反面、過去は一輝にささやく。 何故、今までのように餌を殺そうとしない。 何故、その環境に居る。 異端のお前にふさわしくないのはわかっているだろう。 プライドが抗い、闇が牙を剥くのを感じずにいられないのに、それをしない。 それほど直人の拒絶が怖いか。奏の手がほしいか。 違う、と言い切れず一輝は唇を噛む。 人間になりたいわけじゃない。うらやましいとも思わない。 だけど、なぜか。 答えの出ない問いとはがゆい想いを、一輝は強引に断ち切った。 くだらない。 「所詮、愚問だ」 「なにが」 つぶやいた言葉を返され、一輝は我に返る。 目の前で、女が仁王立ちして睨んでいた。 きりりとした目元に、赤く艶のある唇、長い髪をひとまとめに結い上げ、くびれたボディラインでもってツーピースを見事に着こなしている。集団にいたなら、一番に目を惹くだろう。 一輝は驚きと喜びを隠さなかった。自然と声が弾む。 「美和子さん、元気そうですね」 美和子と呼ばれた女は今にも一輝に食らいつこうとしていたが、名を呼ばれたのが意外だったらしい。目をぱちくりとさせる。 「覚えてたの」 「一度お世話になった方は忘れません。綺麗になりましたね。驚きました」 一輝の素直な賛辞に、彼女は満足気に笑う。 「女の名前を覚えてるところは、さすがは吸血鬼ね。そこらの男と違って、一輝はもてる秘訣を心得ているわ。再会を祝して、一杯どう?」 「いいですね」 「もちろん一輝のおごりでね。さっきの女の子の代わりにおごられてあげる」 「見てたんですか」 「見てたんです」 いたずらを指摘するような美和子の口調に、一輝は舌を出す。 美和子はクスクス笑って、一輝の腕に手をからめた。 一輝は公園のベンチで待つ美和子に、自販機で買ってきたカップ酒を差し出した。 とたんに美和子は吹き出す。 「どこかに転がり込んでいるとは思っていたけど、これってどういうこと?」 「今は住み込みバイト中でして」 「あの一輝が、住み込みで働いてるの!?」 「定休日以外レジ打ってますよ。おかげで札勘定も上手くなりました」 冗談を聞いたように大笑いする美和子を、一輝は困ったように見る。 吸血鬼の自分は、存在さえ許されない異端の種族だ。戸籍も無ければ写真にも姿を残さない。なにかを書き残したりしないのはもちろん、レシート一枚にも気を遣う。 だから、一輝は何も持たずに国内を放浪する。 入り用の物は街を歩けば誰かが貢いでくれる。寝床は女の胸の時もあればベンチの時もある。 家に誘われればそのまま居着き、気が向いた時か、頃合いを見計らって出ていく。影のように生きるには、居候が一番いい。200年以上これを繰り返していた。 その自分が、今は喫茶店のレジを打っている。当然、顔を覚えられ、自分目当てに来る客も居るし、名も知れ渡っている。 これはまったくもって前代未聞の事態だ。一族の歴史に残るといっても過言ではない。 そのうえ、この事実を素直に受け入れている自分が、なにより不思議でならない。どうもあの姉弟と居ると調子が狂う。異端の自分が頑として受け入れなかった、人の何かがあるのだろう。 過去を知る美和子も、さすがに驚いたようだ。話を聞いている横で、何回か酒を吹き出しかけ、むせる。 「嘘でしょ。美人揃いの合コンも、私の親友に会うのも嫌がっていた、あの一輝がそんな事してるなんて。冗談にもほどがあるわよ。私にはただ単に、便利にこき使われているようにしか思えないけど。ちょっとしたお使いでさえ嫌がってたくせに、荷物持ちってどういう事? 一輝が出ていかずにそこに居続けているなんて、すごく変」 「変ですか」 「変よ。どんなに高い服でも、飽きたら捨てる人だもの。それが一輝よ。それともなにか、大きなメリットでもあるわけ?」 「いえ、特に。出ていくにしたって、あてがあるわけじゃないですしね」 そう口で言うが、わかっている。これは言い訳に過ぎない。 美和子は、ちらりと一輝を見る。女特有の鋭い視線。 「どうだか。それにしても、あの一輝がレジで頭を下げているなんてね。悪いけどファミレス店員の格好すら想像つかないわ」 「私もこうなるとは想像してませんでした」 ふたりで同時に笑い出す。 美和子の笑顔は昔とまったく変わらず、それが一輝を和ませる。 10年前、雨に打たれて動けなくなっていた所を彼女に拾われ、同居生活が始まった。しかし1年ほどで一輝は出ていく。 理由は美和子ではなく隣室の男にあった。一輝にストーキングしていたその男が、‘化け物’とだけ書いたメモを投函してきたのだ。それを見るなり一輝は隣に乗り込み、自分に関した物を処分させた挙げ句、男を連れ出した。生気をすべて吸われた男の死体は火をつけて黒焦げにし、自分もそのまま戻らなかった。 美和子とはそれきりだった。 残された元同居人は、ここで口をとがらせている。 「前触れもなく隣のホモといなくなるんだもの、びっくりしたわよ。友達みんなは駆け落ちだとか騒ぐし。ねえ本当はどうなの?」 一輝は答えず、視線を泳がせる。あの男を思い出すだけで胸焼けがしてくるのだ。 自分に執着する者の生気がねっとりまとわりつき、まさかあれほど体調に響くとは思わなかった。以来ストーカーの生気は生涯吸わないと決めている。 「駆け落ちなんかしてませんよ。あの男が盗聴器とか仕掛けてきたり、美和子さんに迷惑かけそうになったから出ていったんです。一緒にいなくなったのは偶然じゃないですか」 美和子はしばらく考えたあと、カップ酒を一口飲む。 口紅が安ガラスにべったりと残ったのを見て、一輝はわずかに顔を歪めた。 赤い色が、なぜかあの男を連想させる。 「まあいいわ。その顔は、聞いても良い事なさそう」 「どうも」 「うち、来る?」 予期していなかった言葉に、一輝は聞き返そうとしてやめる。 彼女のすがるような目で、これから起こるすべてを見越すことができたからだ。 一輝はなついてくる美和子を冷たく突き離した。 答えはひとつ。 「いいえ。どうしてですか」 必要最低限の言葉に美和子は喉を詰まらせる。 しかし、咳払いをひとつすると、無かった事のように一気にまくし立てはじめた。 「ほら、スポンサーはいないんでしょう。今の私なら稼ぎもあるから、一輝の好きな物とか買ってあげられるし、車でも何でも用意できるわ。ひとりのマンションって広すぎて寂しいのよ。そこに一輝が居てくれるだけで幸せなの。本当よ。何でも買えるわ、一輝が嫌だっていう事は絶対にしない。一輝が好きだって言ってたあのシャンパンもたくさん買ってあげるから、毎日飲んでたらいいわ。ほかにもしてほしいこと、買って欲しい物もなんでも言って。私が全部叶えるから! ね、いいでしょ?!」 否定を否定するために紡がれる言葉は危うく、哀しいくらいに一途だ。 一輝は焦りを浮かべる美和子の顔から目をそらし、気づかれないようにためいきをつく。 過去の同居人との再会は今までもあった。そのつど、一輝は懐かしさに浸るだけ。 なのに決まって人間のほうから同居をやり直したいと訴える。 断っても大人しく退けばいいが、ほとんどは美和子のように泣いてすがってくる。 過去に一度だけ許した時があった。見るからに哀れな女だった。 女は一輝を監禁し、居るだけでいいからと呪文のようにささやいた。 監視者は常に一輝の側にいて、なにか言えばすぐ叶えた。寝る前には必ず、自分は独りでは死んでしまうからと囁いては一方的にキスをする。 愛してるわ、一輝。だから、怖いの。わかるでしょう? そう言って手錠をかける。一方を一輝に、一方を自分にはめて。朝までそのまま。 鎖はいつでも壊せる、という油断を一輝に与えただけ、完璧な監禁だったといえる。哀れな女への同情だけで、一輝は留まっていたのだから。 歪んだ愛情で造られた檻も、常に一輝を側に置いていた女自身の、些細な油断で壊れた。 女の元へ旧友から電話がかかってきた時、一輝はベッドでうたた寝をしていた。 一輝の寝顔を見ていたかったなら、電話に出るべきではなかった。 起こさないよう、そっと隣室に行くべきではなかった。 久しぶりに話す友達に向かって、自慢話をするべきではなかった。 女は一輝の存在をこれみよがしに自慢しはじめ、とうとう言ってしまった。 ‘気分良いわよ。そうね、ブルゾイでも飼っている感じかな’ 女は次の言葉をつなげようとして息を呑んだ。 隣室から音もなく姿を現した一輝を、愕然と見上げる。 一輝は受話器の向こうから問いかける声にもかまわず、いいわけさせる時間も与えず、女の心臓を握りつぶした。身体からわずかに滲む生気にさえ、虫酸が走る。どうして、と動く唇に答える気も起きない。 優越感あふれる傲慢な飼い主の台詞は、飼い犬の野生を覚醒させるには充分すぎた。 今、美和子はあの女と同じように、全身全霊をかけて一輝に訴える。 一輝は首を振ることもなく、伸ばしてくる手を無碍に払いのけては、顔を反らす。 乞うだけ無駄だというのに。絶対に叶わないことを、どう伝えればいい。 「一輝、愛してるわ! 本当に愛してるの! 私がこんなに愛してるのは一輝だけなの! ねえ、お願い。うんって言ってよ! うちに来るって言って! いいでしょう!?」 「美和子さん……」 10年前。 吸血鬼も大変ね、と肩を貸してくれた彼女は素朴でかわいらしい印象だった。 料理が苦手だというので、簡単な物を教えたら飛びあがるように喜んだ。 新しい服を買ったと言って着てはひとりで一喜一憂していた。 ここにいる美和子には、あの頃の面影がどこにもない。 一輝は美和子に目をやる。 あかぬけて綺麗になり、ブランドを着こなす美和子。普通の男ならほうっておかない魅惑的な女性だろう。 そして今は髪を振り乱し、怒りと焦りと欲望に我を忘れ、化粧のはがれた顔は今にも泣き出しそうだ。人間のエゴをむき出している顔は、さっき会った派手な娘となんら変わりない。 一輝が望めば人も殺すだろう。一輝が頷くためなら、どんな犠牲もいとわないはずだ。 でも、そんなことはしない。一輝から彼女に求めることは何もない。 いつものように、自分の規律に従うまで。 「しかたないですね」 ため息まじりにつぶやく一輝に、美和子は頬を緩める。 その笑みは、いかなる勝利の女神よりも綺麗だ。 「……一輝」 一輝はするりと美和子の首にからみつき、美和子はそれに合わせて身を任せた。 うなじに走る一輝の指先に、わずかに甘美の声を上げて身体をふるわせ、熱い吐息を一輝の首すじにかける。 一輝は花束を抱くようにやさしく抱きしめると、ピアスが光る小さな耳にささやいた。 「さよなら」 美和子の全生気を一気に吸い上げる。 それはすこし身体を重くする感があった。 二度と動かない美和子の髪を直しながら、一輝はなにかをこらえるように目を伏せ、息を吐いた。 逢った時から、こうなる運命だったのだろう。彼女は再会したときから執拗すぎた。 自分が定めた規律は三つ――正体を知った者を殺すこと。恩ある同居人は見逃すこと。見逃しても執拗に迫られた時は、容赦なく殺すこと。きれいな死体にするのがせめてもの情けだ。 すまなかった。逢わなければよかった。 沸き上がる懺悔の念は、美和子に対してではない。 思い浮かべる怪訝顔は、赤い髪を揺らして悲しそうに歪んでいた。 一輝は脳裏に映る映像に向かって、自分に言い聞かせるように訴える。 これだけは別だ、直人。許せとは言わない。見たくなければ目を閉じてろ。 お前と違って俺は異端だ。その特徴に、時々人を狂わせる。 自分と逢わなければ、別の人生もあっただろうに。そうだろう、美和子? 美和子の白い顔に問うても、答えは出ない。 居候先のふたりは大丈夫だと思うが、その日が来たとき、自分はどうするだろう。 ふたりにだけはしたくない。いや、そうなったときに自分はできるのか。 もう一度直人を思い出そうとするが、赤い色がにじむだけで、うまくいかない。 これも愚問なんだろう――今はまだ。 その日が来ないといい。 美和子のように、冷たくなったふたりは見たくない。 「おやすみ、美和子さん」 一輝はそう言うと立ち上がり、ネオンがちりばめられた街へ足を向ける。 夜は、まだ明けない。 了 (02.11.24)
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Heart
あとがき
吸血鬼、ダイスキー!! 一樹、最高ー!! という熱を遠慮なくぶっこんだSS、いかがでしたか。
本編『アフターグロウ』の脇役である真田一樹氏の本来の姿はこんな感じです。サイトから持って来ました。
脳内BGMはB'z『Loving allnight』で書いてた覚えがあります。
Hearts
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