TEGAKI
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小園
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「ふ、ふぐ…えぐ……お、お兄ちゃ……」 震えるような小さな声と、縋るように握られた服の裾。それを認めるや否や、トド松は思わず眼を瞑った。うわぁ、嘘だろー……。思わず声に出しそうだった。 トド松は子供が苦手である。男の子、女の子、保育園児、幼稚園児、小学生。性別年齢問わず「子供」と称される生き物が、トド松は本当に苦手であった。 子供は天使?よく言うよね。子供は悪魔だ。そうして邪悪。トド松は常々そう思っていた。小悪魔なんてかわいい言葉を使う大人もいるけれど、本心か?と疑いたくなる。なぜならば、自分達の小さな頃はそれこそ真に「悪魔」だったからだ。 六つ子に生まれた松野家の子供達は、六つ子である分、他所の子供よりよっぽど横着で乱暴で爛漫だった。東に喧嘩があればすっ飛んで行って囃し立て、西に欲しいものがあれば悪知恵を働かせて手に入れる。子供という立場を利用してやりたい放題。そこに善良な心なんてものはなかったように思う。 兄弟は仲間であり敵でもあった。そんな兄弟をいかに上手く利用しダシ抜いて仲良くし喧嘩をするか、画策する内心は邪悪塗れだったのだ。でもそれはトド松だけではなく、他の兄弟も同じだった。カラ松と手を組んでおそ松のおやつをちょろまかした次の日に、カラ松と手を組んだおそ松に泣かされたこともある。その次の日にはおそ松とチョロ松が手を組んで、次男のカラ松を罠に掛けたり、つまるところ毎日がめまぐるしく戦争のようだったのだ。 もちろん六つ子揃って仲良くする日も少なくなかったけれど、同じくらい仲の悪い日もあるに決まっている。そんな日常を過ごす内、同年齢に疑心暗鬼になる分大人はよほど騙しやすいことに気が付いたのは、子供は打算的な生き物だからとしか言いようがない。 兄弟や友達ならば凡そ怒るような行いも、大人はすんなりと許してくれる。例えば取っておいたプリンを食べたりとか、多少生意気な口を利いたりとか。甘えればその分だけ甘やかしてくれて、泣けば大抵のことは許してくれた。その匙加減も覚える子供はまさに悪魔だ。トド松は信じて疑わない。 それなのに、大体の女の子は子供をかわいいと言うし、子供が苦手だと公言しようものなら世間からは白い目で見られる。そしてトド松を公言する人間を少し引いた気持ちで見てしまう。だから子供には笑顔で接するしかないのだ。例え潔癖な自分の服を握るその手が、何かしらの液体で汚れているとしても、特に、あからさまな迷子には。 「ボク、名前は?」 「……」 「年はいくつ?」 「……」 問いかけても口を開かない。顔に笑みを貼り付けて屈みこんだトド松は早々に面倒臭さを感じていた。女の子とも待ち合わせ中でなければ、適当な大人に任せられたかもしれないのに。 トド松の服の裾を握った犯人は、幼稚園児相当の男の子だった。真っ赤な眼に反して青い顔。半泣きで喉を引き攣らせている様はあからさまに迷子。何故かは分からないが、思わず手近にあったトド松の服を握ったのだろう。なんで僕にしちゃったかなぁ。トド松は胸の内でぼやく。あそこのサラリーマンなんか、いかにも子持ちという見た目で子供の扱いにも慣れていそうなのに。 休日の駅構内は大勢の人で混雑していた。遠く聞こえる発射音と駅員のアナウンス。百貨店が隣接していて呼び込みの声も騒がしい。トド松の平均的な身長では辺りを見渡しても男の子の保護者らしき人は見当たらない。もしかすると保護者を探して彷徨っている内にここに辿り着いてしまったのだろうか。そうなるとますます面倒だ。 迷子センターなんかあったっけ、いや駅員さんでいいか、と段取りを思い浮かべながらトド松は震えるスマホを取り出した。ラインが二件、メッセージの到着を告げている。兄弟に見られないよう設定しているから待受けに内容は表示されないが、大方女の子からのメッセージとスタンプだろう。当たりを付けてから読まずに仕舞い、男の子に向き直る。 「迷子なんだよね?お母さん探してるの?」 「うぐ、えっ、ふぐ……う、う、……!!!!」 迷子という単語を聞いた途端、男の子の顔が更に歪む。しまった!トド松は自分の軽率さを呪った。自覚させるような言葉を使うんじゃなかった。 ぐるぐると唸る男の子の喉の音が聞こえそうに思えて、トド松は思わず男の子を抱き上げた。重い!しかしそうしないと、今にも大声で泣き喚きそうに感じたのだ。 「待った!泣かないで!」 「う……お、兄ちゃ、」 「うんうん、お兄さんがママ探してあげるってば」 「ちが、お兄ちゃん!!!」 「はいはい、お兄ちゃんですよ」 抱き上げた子供をしっかりと抱え直す、うわ言のように耳元で「お兄ちゃん」と繰り返す声は、トド松を不思議な気持ちにさせた。末弟である自分は今まで兄と呼ばれたことがない。確かな重みと子供特有の高い体温を感じると、不思議と面映い気持ちが湧き上がってきて、本当は駅員に押し付けようと思っていたのに探してやるかぁという気になってくる。 そうして母親を探そうと踵を返した瞬間、唐突に向こう脛に激痛を感じた。 「い゛……?!!!」 「なにやってんだこの野郎!!!!」 「兄ちゃん!!!!」 飛び上がり取り落としそうになった男の子をなんとか抱きかかえながら足元を見ると、抱いた男の子によく似た子供がトド松を睨み上げて立っていた。この子供に蹴られたのだ!そいつはファイティングポーズを取っていて、あからさまにトド松を威嚇している。 「オレの弟に何してんだ!」 「え?弟?」 「兄ちゃん!」 「あ、そっち?!」 抱いた男の子が身を捩るので降ろしてやると、すぐさま兄らしき子供が弟を背に庇う。尖らせた瞳。泣きべその子供。 まるで悪役だ。トド松はため息を吐いた。 「これだから僕、子供って嫌い……」 「よー、トッティ」 「……えー、一松兄さんかぁ」 ごたごたの間放置していた女の子のラインを開くと、かわいらしいスタンプと「今日行けなくなっちゃったー!ごめんね!」との一文だけが残っていた。散々だ!トド松は不貞腐れて、よたよたとチビ太のおでん屋で管を巻いている。 「なに、不満なの?」 「十四松兄さんかチョロ松兄さんかカラ松兄さんがよかった」 「じゃんけんで負けたんだけど。言ってくれるじゃん、トッティー」 ふひ、と笑って隣に腰掛ける一松は、チビ太に向かって「水一杯ね」とだけ注文した。それを横目で見ながら、ほんと、なんでよりによって一松兄さんなんだろ、と酒に酔った頭で思う。 粗方自分の扱いに困ったチビ太が、松野家に電話して迎えに寄越したのだろうけれど。来てくれるなら、もう少し甘やかしてくれる兄がよかったなぁ。 ぼやいているとドン、と水を置いたチビ太が口を開く。 「お前ェらどーっせ金持ってねぇんだろ!おう一松、そいつさっさと持って帰りやがれい!」 「へいへい。ほら、水」 「やだ」 「飲まないと口移しするよぉ?いいの」 「えっ、それは嫌!」 この兄ならば本当にしかねない。トド松はコップをひったくって水を飲み干した。彼はその様子をにやにやとした笑みで見ている。 水を飲むと、途端に頭が冴えかけてしまう。元々酒に弱くないのだ。醒め始める酔いにもったいない気持ちになって息を吐くと、「ちょっとはシャッキリしたでしょ」と一松はトド松の皿から牛串を浚った。 「ちょっと!僕の牛串!」 「ん、うまい。ごっそーさん」 油断も隙もない。カラリと串を放り、さ、帰ろと席を立つ一松に、意地の悪い気持ちになる。 「……僕、まだ帰らないよ」 一松が「え」と呟くと、チビ太が「あぁん?帰れよー!」と声を上げた。 「いや今のは帰る流れでしょ」 「かーえーらーなーいー!チビ太の家の子になる」 「うわ、子供?」 「お前ェなんかいらねぇ」 「ひっど!……じゃ、一松兄さん、僕が帰りたくなるようなこと言ってみせてよ」 「無茶振りすんな!え、何チビ太その目。やめてよ」 焦った四男は早口で饒舌になる。あまり追い詰めるととんでもないことをやらかすから、それきりトド松は黙ってあわあわとする一松を見ていた。チビ太も同じように一松を見る。プレッシャーを感じたのか、一松は途端に口ごもって下を向く。 まったく、情けない兄だ。トド松はぼんやりと思った。それでも助け舟は出さずに見ていると、うろうろと言葉を探して、結局。 「……銭湯、閉まるけど」 途方に暮れた瞳に、トド松は弱い。 一松は兄らしい兄ではない。五人も兄のいるトド松の目は、一松をそう評価していた。おそ松のように長男だからと威張ることもなければ、カラ松のようにどっしりとした構えもない。チョロ松のようなしっかりさもないし、十四松のような勘のよさもないのだった。 「兄さんはさぁ、僕がチンピラに絡まれてたらどうする?」 「何それ、どういうシチュエーションなの」 「守ってくれるー?」 「いや、悪いけど期待しないで」 「だよねぇ~」 帰り道をのろのろ歩く。春といえどまだ夜は寒い。ぶるりと肩を震わせる一松に、トド松はストールを貸してやった。あぁ、ありがと、と小さく呟いてストールを広げ、どうしたものかと考える一松の真情を考える。 『まじトッティ女子。なんだこの布どう使うの。巻けばいいの。マフラーにしてはでっかいし。首に巻いたらごわごわすんだけど。あーもういいやこれで。……なんかおかしい』。 ころころと表情に出て、最終的にミイラ男のようになったまま顔を顰める兄を、残念ながらかわいいとは思えない。 「あーもう貸して」 見かねて手を出す。トド松も本来の使い方なんて分からない。ただショップの店員さんに教えてもらった通りにまけば、それなりに見えて、ちゃんと暖かいのだ。「おぉ、文明の利器……!」と打ち震える兄のコント発生のツボがわからないが、十四松ではないので乗りはしない。 「あーあ。今日の子供のが、ちゃんとお兄ちゃんしてたなぁ」 「は?なんのこと。っていうか俺ら同い年じゃん。兄も弟もなくね」 「でも末弟は末弟ですー」 「……今日のお前、めんどくさい」 早口で言って、スタスタと先を歩く。丸まった背中に、かわいらしいピンク色のストールが揺れる。それをじっと見つめても、わずかに残った酔いのままに甘えたい気持ちは解消されないのだった。むしろ甘やかしてやった気分だ。ちくしょう。 泣きべそな男の子の、兄の背を掴む手を思い出す。 肉まんでも買ってくれないかな。 思っても、口に出さなければコンビニに寄ることもない。察して欲しいなんて我侭だ。知っているから、トド松は渋々とその後を追った。 「ただいまー」 「おかえり。あれ、わざわざ迎えに行ってたの、一松」 どこ行ったのかと思った。 玄関で出迎えたチョロ松が言う。一松はそれには応えず、するりと居間の向こうへ消えた。開け放たれた扉の向こうには、パジャマで炬燵に潜り込む兄達が見える。やわらかな暖気が流れ込んでくるのを知るに、春先ながらもストーブまで付けているのだろう。誰もが死んだように動かないから、もしかすると寝ているのかもしれない。 「なにそれ。じゃんけんしたんでしょ」 はー、疲れた。 ぼやいて上がり框に腰掛ける。なぜだかくたくたに疲れていた。そのまま暖気に身を任せてうな垂れると、チョロ松が「じゃんけん?するわけないじゃん」と言葉を返す。 「え?」 「まだ寒いのに、なんで大の男を迎えに行かなきゃいけないんだよ」 「え、でも、だって」 トド松が動揺して見上げたチョロ松は、きょとりと首を傾げている。 「じゃんけんしたんでしょ?負けたから迎えに来てくれたんじゃないの、一松兄さん」 「えぇ?違うよ」 聞けば、チビ太からの電話を取ったのはチョロ松だったという。やいやいと騒ぎ立てるチビ太の電話を一応兄弟達にも知らせたが、満場一致で「面倒だから放っておけ」となったらしい。それもそうだろう。トド松だって、その場にいればきっと同じことを言った。だからそれに傷つく謂れはないのだけれど。 今日は、迎えに来てほしい気分だった。 「その後、一松がどっか行ったなって思ってたけど。お前、甘やかされてんなぁ」 チョロ松の声が耳に響く。 そのまま玄関から動かないトド松に三男は、「中、入んないの?」とだけ問いかけて部屋へと入っていった。代わりに一松が戻ってくる。 「ほら、銭湯」 「……一松兄さん」 兄らしい兄ではないが、一松はそれでも、トド松の兄なのだ。 ドテラを羽織ってきたらしい彼は銭湯グッズを片手にサンダルを引っ掛けた。次いで、トド松の分のドテラときちんと畳まれたストールを渡される。 「……分っかりにき」 小さくぼやく。 ストールからは、一松の石鹸の残り香がした。
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