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Mia kihäri
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赤松
秋生が呼ぶ。 「おーい、そろそろ一休みいれたらどうだ」 「はあい。行こう、鹿島君」 机に広げていた本へしおり代わりに鉛筆の後尻を挟むと、書生は書斎の扉をくぐって居間へ歩む。 「書生君は勉強熱心で見てるこっちがやる気出さなきゃって思っちまうな」 笑いながら家主、秋生が床に坐す。敷かれたランチョンマットの上にコーヒーカップを二つ添えると、不器用に足で挟んだコーヒーメイカーのポットを傾けて、褐色の液体をカップに注いでいく。 御丁寧にどうも、と書生が笑む。視線を感じ振り向くと、鹿島が書斎の扉に凭れてこちらを見ていた。おまえも座れって、秋生が誘う。のそのそと近づいてくると、すとんとカップの前に坐す。まるで野生動物が警戒しているようだ、と内心秋生は苦笑する。鹿島を連れて書生が秋生宅を訪れるのもこの度で数度目だ。初めて訪れた日はなにも喋らない鹿島に戸惑って二人の仲を案じてしまったが、どうやらこの空気がこの二人にとっては自然らしい。尤も、書生は鹿島を案じて二言三言と話しかけるのだが、鹿島がそれに答えるのは三言に一度の頻度で、成り立っているのかいないのか、端からすれば不思議な関係を結んでいるように思えた。 「社会学は僕には難しいです。知らねばいけないことがあまりにも多くて」 「文学部なのによくやってる。関心があるだけで見上げたもんだよ」 熱心にノートへ用語を書き写していく書生の横で、鹿島はただ座って物憂げに見つめていることが多い。どうして書生に付いて勉強の場にいるのか秋生の知るところではなかったが、まあ鹿島が孤独を貫くよりはと、友として関係が始まるのであろう今の様子をさほど心配せず見守っていた。 ただ、鹿島が秋生の呼びかけに応えたことは数えるほどしかない。 それが鹿島との関係にとって普通になりつつあるので、それは少し野暮ったい、となるたけ鹿島にも言葉をかける様に努めていた。 鹿島はどうやら同じ年代の人々や世間から、厄介がられ、蔑むべきものと見られているようだと町の人々の態度から秋生は知っていた。鹿島と共に歩くと、忌み子や、白鬼め、という蔑みの言葉を耳にすることが一度ならずあった。昭和の初めの価値観は秋生には分からなかったが、それが正しい訳がないとは胸を張って言えた。だから鹿島にも、普通と同じように接するだけだ。ただ返事が返らない。これでは会話に困るのだが。 結局一度も喋らないまま、鹿島は書生と共に秋生宅を後にした。次回訪問の口約束を交わしたが鹿島が聞いている風はなかった。どちらでも、彼のしたいようにすればいい。秋生はその背を見送った。 「ねえ、鹿島君」 書生が呼びかける。隣を黙ったまま歩く鹿島を向くと、こう提案した。 「鹿島君もやってみないかい、読書を。僕は文学部だから、好きな系統があるなら多少は教えてあげられるよ」 鹿島はしばし無言であった。が、こう零した。 「字が、書けない」 書生は吃驚した顔で言葉に詰まった。そうか、鹿島君は初等教育を受けていないの……、小声で独り言ちると、ばっと顔を上げて鹿島を見た。 「僕でよければ、一緒に勉強してみる気はないかい」 鹿島は答えない。 「字を読み書き出来れば、もっとこの世が愉しくなる。自分の想いを言葉に乗せて伝える事だって出来る。変わってしまうよ、自分と世界が。きっと」 分かれ道が差し迫っていたが、鹿島は書生の顔を見て、それきり話しかけることは無かった。 名残惜しい心地で書生は鹿島と道を分かつ。君のためにもなると思うんだ、と書生は思う。下宿へ帰りがけに文具屋へ立ち寄って、新しい鉛筆とノートを一つずつ揃えた。受け取った包みを大事に胸に抱えて夕暮れを歩きだす。 * 指折り数える。いちと、にと、さん。 握った指を開いてみる。 この指が辿る凡てに名前があり人々に親しまれている。そんな世界を鹿島は考えたこともなかった。ただ過ぎる日々を眺めていただけだ。名前があるのだ、あれにも、これにも。 「僕にも名前がある。鹿島君にだって名前があるじゃないか」 そう言われて鹿島は瞠目して言葉が継げなかった。そんなこと、初めて考えた。 「ねえ鹿島君、きみ、下の名前はなんていうの」 にこやかな表情で書生がこちらを覗きこんでくる。 口を開く。俺の名は。 正午を過ぎてから、ザアザアと雨が降り続いている。 轟音に乗せて時折、ぽこん、ぴちょんと調子外れな音が響く。軒先に出したままの金バケツや焼き物が雨粒を跳ね返して、存外柔らかな音を添えていた。古びた和傘を差しながら歩く鹿島は、あてもなく、町外れの山の麓を目指す。 人家を抜けて、畑を通り、草原をひとつ超えると更に小さな集落が寄り添うようにして立ち並んでいる。その奥に雄々しい山が集落に影を落とす様にそびえていた。靄の掛かる山景に負けじと色濃い新緑が山を埋め尽くしている。 歩を寄せられるように集落の裏手の雑木林伝いに歩みを進めると、一本の巨木が行く手を遮り、道を塞いでいた。見遣ると、巨木に沿って僅かだが踏みならされた獣道のような路があった。ここを通る人々はそちらへ逸れているようだった。 赤茶けて鱗状に剥がれかけた硬い木肌と二本の針状の葉が連なる外観に、見覚えがある。 赤松。 書生が図録の中の写生画を指さしていた。その時の記憶が呼び起される。 文字より絵を先に知った方が学び易かろうと、書生は会う毎に動物や植物の図録を携えては鹿島に指さし教えるようになっていた。示されるものを知っていようがなかろうが鹿島はそれをただ聞いているだけだったが、今まで見てきたものに文字として名前が付くのは不思議な心地で、決して悪い気はしなかった。 書生は次は文字を書きとらせると言っていた。鹿島は右手をそのように使う様子が想像できずにいる。 見つめた右手越しに視界へ見慣れぬものが映った。 赤松の根本に小さな屋根のついた木祠があった。その中に、雨に濡れずにいる地蔵が静寂を糧にして鎮座していた。変わった人形だな、と石造りの柔らかな微笑みをなんとはなしに見つめていると、不図周囲が静かになり、雨の音が聴覚からすっと消えた。雨音を探して大木を見上げると、白く曇った空が葉と葉の重なりの隙間から光のように降り注いでいる。雨粒が数滴落ちてきて、頬に当たり、垂れていく。丁度地蔵の隣に土が濡れていない空間を見つけ、和傘をたたむと鹿島はそこへ背を預けた。来た道を見下ろす。山から木々が伸びて道を覆っている。道理で雨をしのげた訳だ。集落へ続く草原が濡れそぼって土が黒ずんでいるのに対して、巨木へ辿り着く道はふるいでふるった様な降雨で済んでいる。 真上を見上げる。新緑の木々が生い茂り、清々しい森の匂いが胸を満たす。光を眩しく感じた瞬間、胸の中になにか弾けたような、これまでに感じたことのなかった、なにか、重たくて確固とした気持ちが鹿島の胸に起こった。この景色を憶えておかなくては、帰れないような気持ちになったのだ。そしてそう思った心を訝しんだ。こんな気持ちは起こったことがない。胸に違和を抱えて、しばしの雨宿りを終える。緋色の和傘に開いた古びた穴を指で辿って、傘を開く。雨脚は弱まり、鳥の声が聞こえてくる。晴れを待っていたように狸が数匹駆けていく。このまま行くあてもない鹿島は、日が暮れるまで新緑に茂る山々を眺めて佇んでいた。 家に辿り着き、日も改まる頃、あの時胸に起こったものがなんだったのか、鹿島は思案するようになっていた。 いままで自分に人としての心などありはしないと思っていた鹿島にとって、あの時確かに胸に生じたものがなんだったのか、乏しい人生経験から明確な答えを導き出すことは難しかった。己を考えるなどと、これまではありはしないことだった。直ぐに答えの出る気配もなかったので、鹿島は頭を巡らすのをしばし止めた。 それから数日のこと、町角で書生の姿を見つけた。 おそらく本でも包んでいるのであろう風呂敷を大事に抱え、カラコロと下駄を鳴らしながら通りを渡っていく姿を呼び止めようとはしなかった。孤独に慣れた男は友と呼び得るものの体裁が分からなかった。知ろうともしなかった。ただ、この身に起こることだけが全てだとこの世に見切りをつけていた。人の世なぞ、己にはわからない。人の世界に己から手を伸ばすことを断つ暮らしをもう何年も続けてきた。世界にこの心動かされるものはありはしなかった。 それがどうだ。あの日の情景に沸き起こったものを胸の奥に刻んでいる今の自分はなんだ。これまでの生き方に則しない、外界からの揺さぶりが、鹿島の心に違和を生んでいた。あいつは俺に文字を教えるという。世界の凡てを言葉に代える術を。この胸に生じたものを言葉にするなら、と鹿島は思うが、なにも浮かばない。朝方目覚めると眠い目をこすりながら、調子が狂う、と久方ぶりに独り言を放った。
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Heart
あとがき
それがこころというものだよ。
書生君の人情に無私の鹿島は変わっていくでしょうか。
Hearts
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Mia kihäri
見て下さってどうもありがとうございます。
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いつもお世話になっているかずのこさんと「創作アイドルさんについて語らうラジオ的キャス」を企画しております!
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