TEGAKI
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漆原 白
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其の伍:白刃の先
冬の夜は四季の中でも星が綺麗に瞬く。 野犬は頭を持ち上げるとその美しい様に吠えた。 その声は切なく夜陰に吸い込まれていった。 . 日ノ本の暦は冬。 正しく白銀の世と化した奥州・陸奥国はひっそりと音もなくそこに鎮座していた。まるで最初から音と言う概念がなかった様に。その荘厳たる美しさも四季の醍醐味と言うものであろう。小十郎は部屋に灯火をひとつ点けると今宵の月灯りを縁側から見上げた。 しんしんと外の冷たさが身に染みる。 だが、その小十郎の陣羽織の様な濡羽色を落とした澄み切った夜空に、散りばめた星が美しくも瞬いていた。 小十郎は唄は詠めないが、芸のある者ならこの夜空で一句詠めるのだろうと思うくらい、息を飲む程の満天の空だ。 小十郎は縁側に胡座をかいたまま懐から篠笛を取り出した。父の唯一の形見。 それに口を付け、息を吹く。すると耳に馴染んだ音が響いた。すうっと息継ぎをし、瞼を閉じると心の情景を奏で始めた。その音は冬の夜によく響く繊細で切なげな旋律であった。 笛は小十郎の数少ない趣味の一つだ。 こうしてひとり笛を奏でる事が多い為、伊達家の中でも小十郎の笛を聴く者はあまり居ない。笛の音に小十郎の深く刻まれた眉間の皺も徐々に柔らかくなる。伏し目がちのその瞳は何を想うのかゆらりと光を揺らめかせていた。 「あら、もうおしまい?」 気配を感じ音を止めると同時に名残惜しげに、そう言いながら現れたのは伊達屋敷に居る筈の喜多だった。 「義姉上、」 「ふふっ、こんな夜更けに眠れないの?景綱」 月灯りの下でも香かおる艶やかな喜多は居住まいを正す小十郎の隣に腰を下ろした。 「義姉上!女子が冷たい縁側に座っては...!」 「大丈夫よ、少しだけ、貴方の笛を聴いていたいわ」 目で促され小十郎は浅い溜息を吐くと再び笛を奏でた。 それを喜多は微笑みながら耳を傾ける。 小十郎の旋律はやはり何処か切なさを感じさせた。 . 一曲奏で終わり小十郎は篠笛を懐にしまった。 「先日の件、政宗様から伺ったわ」 喜多の透き通った紫紺色の瞳が小十郎を写す。 先日の件、とは極秘の時の事だ。 小十郎は喜多に向き直ると次の言葉を待った。 「よく務めを果たし伊達家に忠義を尽くしたわ。それでこそ片倉家の男児たる者」 「恐悦至極。しかし、三河での不祥事の責は果たすつもりです」 「その件だけれど」 三河、そう口にした小十郎の脳裏を過ぎるのは半蔵の姿。あの日以来、陸奥国は豪雪の為に閉ざされ人の出入りはない。故にあれから顔を合わせてはいない。それに戦場で相見えたいだけで普段からそう頻繁に顔を合わせるものなら恐らく小十郎の精神が擦り切れてしまうだろう。 「服部半蔵と相見えたそうね」 喜多の口から半蔵の名前が出て驚いた。 だが喜多の表情から喜多が何を危惧しているのか直ぐに悟った小十郎は小さな苦笑を浮かべる。 「義姉上、俺は全てを掛け全てを背負うとあの日、政宗様に誓いました。それは命を賭してでも、変わる事のない覚悟。その覚悟に陰りは二度と」 「...ええ、分かっているわ景綱。ただ、貴方が苦しむのなら、」 「お心遣い痛み入ります。ですが、義姉上が憂う事は何ひとつありませぬ。乗り越えるべき先を彼と見据えただけ、」 喜多の心配げな微笑みをしかと見つめ返す。 その心の強さを感じたのか喜多は小さく頷くと小十郎の腕を引いた。突然の事で何の抵抗も出来ない身体は喜多に誘われるまま、その腕に抱かれていた。 「義姉上.........」 抱かれていた、と言うよりその豊満な胸に顔を押し付けられていると言うべきか。喜多は隙あらばいつもこうして抱き締めたがる人だ。幼い時はまだ良かったがもうこの歳でもやられると気恥ずかしさでいっぱいだ。喜多もまた止めろと言って止める人ではないから最早半分諦めているが。 漸く解放された小十郎は咳払いをする。 「景綱、貴方は強くなったわ。誰よりも何よりも。自慢の弟だわ」 「......義姉上?」 「これからも精進を怠らず、伊達に片倉ありとその身で示しなさい」 その言葉はこの静かな夜にやけに明白に聞こえた。 「さあ、義姉上、これ以上は御身を冷やします。屋敷にお戻りを」 「そうね。また来るわ」 火の番をしてる者を呼び喜多を送り届ける様にと命じると小十郎は再び夜空を仰いだ。この美しい夜空に半蔵は何か綴ったりするのだろうか。小十郎は何故か、そう半蔵の事を思い浮かべていた。 続
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Heart
あとがき
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其の肆:転機 : 前へ
漆原 白
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鴉と野犬【半景】
漆原 白
2017/03/16 00:53
全6話
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