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冬の日
知っているのは、名前と自分より年上らしい事。甘味を好まず酒好きで、酔うと面倒くさい位絡んでくると言う事。 たったそれだけ。 それ以上は知らない。 まして、自分が知る立ち位置でもないと思っていた。 暮れも押し迫った冬の日。 最近紅の顔を見ていないとスゥから聞いた。 年末だから忙しいのだろうと言ってみたが、知り合いの誰もが見かけていないとなると、少しだけ気にかかる。 一応、見かけたら声をかけておくと妹に言ってからふと、あいつが何処に住んでいるのか知らない事に気が付いた。 いつもふらりと現れては、スゥや俺にちょっかいを出して散々かき回してからまた何処かへいなくなっている。 猫のような女。 今頃どこでどうしているのか。 あの無防備さ故に厄介ごとに巻き込まれていないか――― そう思いつつ同時に、相手は子供ではないのだからと、あいつにはあいつの生活があり、何かがあったとしても誰かがいると。 自分に言い聞かせるように思考を止めた。 それから年内締切の原稿がいくつも重なり、慌ただしく数日が過ぎて行った。 担当編集者との、年明け後の打ち合わせを終えた帰り道。文庫と自宅共同の入り口である門の前で、しばらくぶりに紅とすれ違った。 「紅―――っ」 振り返り、咄嗟に強く呼ぶ。しかし、相手は数拍遅れて立ち止まると、ひどく緩慢な動作でこちらへ身体を向けた。顔は伏せられ、表情が見えない。 「バル…。何だか久しぶりだね。そう言えば、スゥにもしばらく会っていないな…」 あの猫のように丸い黒い瞳が見えない。 呼び止められた時とは打って変わった早い動作で 「今度また会いに行くから、よろしく伝えておい…」 「―――………」 その場から逃げようとする紅の腕を、俺は掴んだ。 女の腕は、自分の手が余るほどに細かった。 「バル…?」 「うちの洗面所、使え。今はスゥも猫達も閲覧室の方だ」 紅の表情は見えない。けれど最初にすれ違った瞬間、横顔は見えていた。 必死に抑えていても、声は震えていた。 「酷い表情(かお)だ…洗っておけ」 ポツリと。伏せた紅の面から雫が落ちた。 いくつも。いくつも。 「何よ…酷い顔って、女が我慢してる時は…見て見ぬふり位しなさいよ」 そうして紅は、俺の手に自分のそれを重ね、顔をうずめた。 まるで縋り付くように。 薬缶から立ち上る蒸気が、人気のないキッチンを温める。コンロから薬缶を下し、先にコーヒー豆を入れておいたドリッパーに湯を落とした。 一人だとは思っていなかった。 例えあいつに何かがあったとしても、傍に支える誰かがいるはずだと、自分に言い聞かせるように思っていた。 けれど現実は逆で、紅は一人で涙を流していた。 その事実に何故だかひどく苛立ちを感じた。勝手にそう思い込んで放っておいた自分にも――― 「洗面所、ありがとう」 タオルで目元を押さえながら、紅がキッチンへ入ってきた。声は大分落ち着いていた。 「メイク落としちゃったから、あんまり顔見ないでね」 苦笑まじりに言い俺の視線を避けるためか、紅はこちらに背を向け、カウンターの椅子に座った。 声は落ち着いた。瞳に涙は無い。 けれど 痛みが無くなった訳ではない。 「―――…ゆっくりして行け」 何かから身を守るように丸めた小さな背の傍に、落としたばかりのコーヒーを置いた。自分の分のカップを取り、紅と背中合わせになる形でカウンターに背を預けた。 何があったのか。 今まで何処にいたのか。 誰かに相談していないのか。 聞きたい事が山ほどあった。 聞きたい事があるのに、口にすることが出来なかった。 耐えるような、拒むような背に沈黙に それを強いて聞き出す立ち位置に自分はいるのかと問いかけたから。 出来る事はただ、黙して傍に在るだけだった。 不意に 「―――」 深く息を吐く気配。 一拍置いた後に、背に重みと温もりを、あの夜ずっと残っていた体温を感じた。 「温かいね…」 呟く声。 それは手に持つカップか重ねた背か。 紅の言葉が胸に落ちた瞬間、目眩のような衝動に駆られて、俺は必死に手を握りしめた。 手を伸ばしたいと思った。細く小さなこいつの背を、抱き寄せて何も心配することは無いと言いたかった。 そして、衝動の根にある感情に気付いた… だが同時に、先程と同じ問いかけが脳裏に浮かぶ。 ―――俺はこいつにとって何なのか 友人の兄。気安い男友達。その辺りか。 出した答えは立ち位置は、遠く隔たりを感じた。 ならば―――… 冷めかけたコーヒーを口に含む。衝動を呑み込むため。たった今気付いた感情を、相手に悟らせないため。口に胸に苦味が広がる。 背中に伝わる温もりを、愛しいのだと感じながら 「ああ………温かいな」 一言だけを返した。
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Heart
あとがき
2013/12/21記事を描いてしばらくしてから、バルが自分の気持ちに気が付いたタイミングはここかなとふと思って練った記憶があります。
大分前の記事から姐さんを気になってる描写は出していましたが本人に自覚はなかったと言う良くある話です。
Hearts
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