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朱の誓約 5 決意の裏側で
夕食は六道の言うとおりイノシシ肉のステーキが並び、遠藤が小躍りしたのは言うまでもない。与えられた部屋は四人部屋で、狭い通路をはさんで二段ベッドが設置されていた。じゃんけんするより早く乾が「上に会長と取井、下はそれぞれ俺たちが使う」と決めてしまい、遠藤の異議も叶わず、結局そのとおりになった。 取井がシャワー室から戻ると、遠藤ひとりが部屋に残っていた。ぐしゃぐしゃの掛け布団を枕にして、携帯ゲームから目を離さずに手を上げる。 「会長たちは」 「吉備は六道に呼ばれた。ワンコは」 「ついていった」 「そ。あいつもいい加減に空気読めっての。吉備も困ってたぜ」 「目に見えるわ」 ベッドに座り、ドライヤーのスイッチを入れた。ウェーブのかかった髪が舞い上がる。 髪を乾かしながら、取井は遠藤に尋ねた。 「ねえ。遠藤はどうして協力者になるって決めたの」 んあ、というまぬけな返事のあとに。 「勢い」 「勢いで決めたの!?」 思わず身を乗り出すと、遠藤はゲームをしたまま、取井がいる真上のベッドを軽く蹴り上げた。 「吉備がやんのに、このオレが抜けるわけないだろ」 「単純。おサルもワンコのこと言えないじゃない」 「取井ちゃんもな」 思わずベッドに一撃を入れ、下から「おっかねえ」と笑われる。 「取井は違うのかよ。吉備がやるからやるんだろ」 「そうだけど、でも」 「じゃあ本当はなんで決めたワケ」 取井はしばらくドライヤーに当たってから答えた。 「勢い、かも」 「ほらみろ」 「でも遠藤。これでいいのかなって思わない? だって、鬼に直接恨みがあるわけじゃないのに、自分がそういうことしていいの?」 「迷ってんなら辞めろよな。吉備にも迷惑だぜ」 厳しい言葉に、取井は黙り込んだ。 遠藤はときどきはっきりと物を言う。それはだいたい、言われたくない部分に鋭く突き刺さる。 自分は協力者や同行者になりたいと思い、手形を押した。正直な、真剣な決断だった。 しかし時間が経つほど迷いが出てきたのだ。 鬼に恨みを持つ人たちの手形たちを前にして、なによりも心がすくんだ。鬼に対して直接的に恨みがあるわけでもない自分を責められたようで、今も心に重くのしかかる。なかでも大僧正の手形から一喝された気がした。 中途半端な気持ちで請け負うな。 遠藤の言葉とおりだ。中途半端な気持ちで受けてはいい迷惑だ。 でも、本当に中途半端だろうか。 今はいない会長の場所に目をやる。 木箱の中身に向かって震えている横顔がそこにあった気がした。 やらせてください、と言った澄んだ声も思い出せる。 あの姿が心を決めさせた。 「やめない。決めた」 遠藤が笑う。 「いいって、やめていいぜ。取井が抜けても誰も怒らないしよ。無理すんな」 「やめないったら」 「やんの」 「やる」 下から遠藤が顔を出して、にんまりと笑う。 「じゃあ取井もオレたちとあれだな」 「なによ」 「同じ穴のくじら」 「‘むじな'! おなじほ乳類でも違いすぎよ!」 タオルを振り上げると、うひゃひゃひゃ、と笑って引っ込んだ。 「だいたいそれって悪い意味なんだから。同じ釜の飯を食った仲とかあるでしょ」 「へいへい」 まったくもう、とドライヤーのスイッチを入れた。温風が勢いよく吹き出し、顔を打つ。いつもより気持ちいい。 もう迷いはなかった。私の契約書はずっと会長の手の斜め上にあるだろう。 髪を乾かし終えて息をつくと、鞄から板チョコを出した。 「おサル」 呼んでも反応がない。覗き込むと、遠藤は掛け布団を枕にしたまま眠っていた。お腹あたりを狙ってチョコを放ると、うまく乗った。 ありがと、遠藤。 「失礼しました」 吉備が六道の部屋を出ると、すぐ隣に乾が立っていた。目を合わせると、わずかに目元がゆるむ。 「待たせちゃったね」 「いえ」 「乾はさきに戻ってて。ちょっと寄ってくから」 「会長はどちらへ」 「ちょっと資料室」 「俺も行きます」 「いいよ」 「行きます」 きっぱりとした態度に、吉備は困ったように息を吐いて、うなずいた。 吉備のペースに合わせて、乾は常に斜めうしろを歩く。夜遅い時間の廊下は静まっていて、ふたりの足音しか聞こえない。 乾はふいに視線を落とした。斜め前でゆれる小柄な肩越しを認めて、どこか安堵する。待っている間もとくに感じたことはないが、定位置に然るべき存在があると、やはり落ち着く。 付き従う己を遠藤はよくあきれている。取井も過保護すぎだと笑う。会長は困惑しつつも了承している。 おかしいだろうか。そうとは思わない。なにがあろうといつも自身だけは、会長の側に居なければならない。そう決めて、以来行動に移しているだけだ。 吉備たずな。人生ではじめて会った、凜とした姿勢を持つ同い年の男子。鬼に憑かれた父親に家族を惨殺された過去を経て、自身すらも憑かれる危険性があるなかで、どこかあやうさを持ちながらも、今も毅然と立ち向かっている。 そう、あやういのだ。 鬼よりも会長自身が、会長をあやうくさせているように感じる。 この人をひとりにしてはいけない。ひとりになった時、それは会長自身が危険に身をさらしている証になる。勘がそう言っている。 ひとりにしてはいけない。これは絶対だ。 「乾」 呼ばれて、ハッとした。気づくと資料室の前に立っていた。 会長ひとりが棚の並ぶ暗い室内に入り、こちらを向いて壁を見上げている。 手形を見上げているようだが、逆光のためか顔がよく見えない。 それではまるで。 まるで闇に囚われているように見える。 「会長」 浮かんだ感情を否定するように呼んだ名は、どこか引きつっていた。 「なんで押した、乾」 入るのを拒むような強い口調に、足を止めた。 暗闇に入っていけない。そこに会長の姿を認めているのに。 「なんで手形を押した」 握る手の中が汗ばんだ。会長を前にしてこんなに緊張するのははじめてだ。 「俺の、決断です」 「聞いただろう。殺されたり憑かれて死ぬかもしれない。あの夜だって、教室で皆殺しにされててもおかしくなかったはず」 「知ってます。憑かれたらどうなるかも見ました」 夜中の校舎で、鬼に憑かれた女生徒と戦った。振り乱した髪の間からのぞく金の目は不気味だった。鬼が離れたことで腐って落ちた屍は、どこまでも無惨だと思った。 「じゃあ、なんで押した」 乾の手形はしっかりと貼られている。 「俺の決断です」 「乾」 「会長が戦うなら、俺も戦うまでです」 沈黙が下りた。 「さっき、六道先生から教えられた。あの子の親は協力者で、先生を何度も助けてくれた人だったって」 「協力者」 「なんでも話せる友達だったって……」 声がふるえている。 「僕もいつか乾やみんなを殺してしまうかもしれない」 「殺してください。かまいません」 言葉を遮るように乾は断言した。本音だ。 「乾」 「俺は会長に殺されても恨みません」 「嘘だ」 「いいえ」 「嘘だ!」 吉備の抗うような口調に対し、乾は諭すように静かに話しかけた。 「俺の決意は変わりません。会長の側にいます」 「どうして」 暗がりのためいきには、拒否しているそぶりはなかった。 乾は闇に進み入った。おなじ暗さに入って、やっと表情が見えた。普段の張りつめた雰囲気はなく、乾を泣きそうな目で見上げている。 こういう目をしている限り、この人をひとりにしてはいけない。 ひとりにしない。 「どうしてもです」 乾は吉備の頭に手を置いた。 吉備は声にならない言葉をつぶやいて、重く息を吐いた。 どうして。
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Heart
あとがき
Hearts
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(2017/07/14 08:31
by もとじー
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