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吾輩は面である
吾輩は面である。名前なぞあるわけがない。 どこで作られたかとんと見当がつかぬ。吾輩は面といってもただの面には非ず、九十九神に成りし神の末席に連なる者なれば、面としての誕生よりも面の神としての誕生を己の生として認識している故である。 なれば面神としていつ生まれたかという問いには明確に答えられるように思えるが、実を言うとそうでもないのが面全体に亀裂が入った所謂「壊れ物」である吾輩の特殊な所である。 器物が百年時を経ると成るのが九十九神という神である。面として百年昔に作られた吾輩はその百年が経ち神となれる丁度その日、愚かな人間の愚昧極まりない行為によって大きく割られ、神と成る資格を失ったのである。吾輩は高名な狂言師の家系に伝えられる白磁色の妖面であった故その資産価値が高く、跡目争いに負けたその家の元跡取り候補が「自分のものにならぬならいっそ」と吾輩をたたき壊してしまったのだ。 時によってのみ溜められるごく微量の神力が、百年掛けて溜められた僅かとはいえ大切な力が、ささくれだった面の断面から溢れていくのは、人に例えるならば心の臓に刃を突き立てられ真っ赤な血を流すようなものである。もしもこれが神になった後に為された蛮行であれば物から神に転じた身を存分に用い逃れ治癒することも決して不可能ではなかった。だがそうではなく、壊れたのはまだ「物」である吾輩であった。 けれど物とはいえ神に転じる一歩前だったモノである。殆ど自我のできていた吾輩の中から流れ出す神力のかわりに吾輩のもっと奥から溢れてこの器を満たしたのは、例えようも無く暗い怨嗟の念であった。人間如きが何故神に至れるこの身を壊すというのか。百年前から最も大切な演目でのみ扱われる吾輩という存在をどうして金槌でたたき割るなどという蛮行を為せたのか。さらに砕けたこの身を川に投げ捨てることができるのか。 くやしや、くやしや、くちおしや、くちおしや、と、口を描かれなかったが故に出すことの敵わない怨嗟の言葉を延々産みだし、荒魂に飲まれ九十九神ではなく荒神に成らんとした、その時である。冷たい川水に浸る吾輩の身を白い指先が掴み持ち上げた。 「勿体ないなぁ」 白い指先は水に濡れていたために冷たい。その指腹で泥に汚れたこの顔を拭き取ったその者は、青みがかった柔らかい黒髪で片目を隠した、頭巾を被った青年であった。逆光気味でわかりにくかったものの吾輩を見つめる目は柔らかな緑色で、よくよく中をのぞき込んでみれば満月の光のような金色と夏の海のような紺碧色が散っている、それはそれは美しい目であった。ぐるりと周りを囲む睫は一本一本が長くその影がくっきりと肌に浮かぶようで、呟きを漏らす唇は男とは思えぬ桜色をしていた。 実際、この者が素手で吾輩に触れなければ、水の中に入るために極度の軽装になっていなければ、吾輩はおそらくこの者を女人と思い込んだであろう。それほどまでに美しい人であった。 「破片は…ああ、あるある。これなら継ぎできるかなぁ」 ざぷり、と音を立てて水の中にさらに手を突っ込み、その者は吾輩を全て回収すると川から上がり吾輩を丁寧に拭って星空踊る夜色が美しい布に丁寧にくるんでしまいこんでくれた。白の肌に触れる黒の布は夜霧のように冷たく、しかし暖かい稽古場のようにほんのりとした温もりを感じる至極心地の良い布だった。後から思い返してみると、これは彼の作った景色布の一つだったのだろう。怨念渦巻いていたはずの心が思いもかけず得られた柔らかなもてなしにスルスルと解けていくのを感じ、我ながらチョロいなぁと思ったものである。 彼が吾輩を救い出した翌日、彼は吾輩を抱えて町の工房に向かい、そこの隅を借りて吾輩に金継ぎを施した。時々見に来た本職らしい男の笑いの混じるダメ出しを聞いていると不安に思ったが、できあがってみると上手かったのだな、と吾輩にはわかった。何故自分の姿が見えもしないのにそうわかったかだと?答えは簡単、割れた面から流れていっていた神力が止まったからだ。傷口を治療して血液の流出を止めるように、その者は吾輩の体を治し、神力をまた溜められる体に戻してくれたのだ。感謝の念を抱かぬ事があろうか?いや、あるわけがない。 青年は吾輩を直した後、自分の部屋に帰るとそっと頭巾を外し、頭の右側にある白い角をそっと撫で、そこにひっかけるようにして吾輩を頭につけた。どうやら角を隠す手頃な品を探して吾輩に目をつけたらしい。だが角が大きすぎて湾曲した吾輩の身では隠すに足りず、結局青年はなんと吾輩の裏面に時空間魔術を仕込み異空間につなげて角を隠すという離れ業をやってのけた。これには驚いた。炎や水といった精霊元素に関わる魔術は使い手も多くそう珍しいものではないが、時空間魔術という元素の関わらぬ虚空素魔術は魔術を構成する理論の理解から難しく使い手が殆どいないからである。もっとも、この青年は理論を収めていた気配はないのだが。どうやら感覚で使っているらしい。それはそれで驚くべきことである。 否、否。もっと驚くべきことはこの青年がそもそも角持ちであることだろう。この国において角と紅髪はやんごとなき血に連なる者であることを示す身体的特徴だ。ということはこの青年も十中八九そうである。それにしては角が片方だけとか、それを隠そうとしているとか、さらによく見ると右目が潰れて盲いていることとか、どこからどう見ても「訳ありです」と言いう見た目をしているのが気になったが、こういう存在がたまに現れることを、吾輩は吾輩が誉れの光を浴びていた舞台で歌われた物語でよく知っていた。 おそらくこの青年は皇の落胤とかそういう存在なのである。それか皇の血を頂いた家系にたまに現れるというやんごとなき血が濃い者か。いずれにしろ角の片方と目の片方がないこととそれを隠そうとしていることから、吾輩はこの青年がそれを他者に悟られたく無い、ということを察した。 ならばこの恩人の願いを達するが義というものであろう。拙者は青年の右側頭部にかけられるという大任を日々こなし、神に至るための神力を流れた分満たして無事神に成った後は青年を守るため目から光線などを発射し青年によこしまな思いを抱いて近寄ろうとする者達を成敗してきた。そのうちにこの青年を「ご主人」と呼ぶようになったのは、この青年の角をくわえることにより常時青年の魔力を受け取りその半生を垣間見た後のことである。 彼のように忠義に篤く、愛情深く、自己犠牲を厭わず、他者どころか器物にすら救いの手を伸ばしてくれる者はそう居ない。主人と仰ぐに、持ち主と認めるに相応しい者は二人といない。吾輩はそう思ったから、彼をご主人と呼ぶことにしたのであった。
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吾輩は面である
ゴジ子13
2017/07/12 08:49
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