TEGAKI
手書きブログへようこそ!
手書きブログは記事やコメントなどを手書きの文字や絵で行う、イラスト主体のブログサービスです。
みんなで楽しくお絵かき交流しましょう!
Twitterで新規登録/ログイン
ブログを書く
ギャラリーに投稿
小説を書く
マンガを投稿
手書きブログへようこそ!
手書きブログは記事やコメントなどを手書きの文字や絵で行う、イラスト主体のブログサービスです。
みんなで楽しくお絵かき交流しましょう!
Twitterで新規登録/ログイン
漆原 白
お友達申請
お気に入り
ミュート
ウォール
(0)
ブログ
(226)
其の参:伊達の鬼
猩々緋の敷物が映える日、 野犬は啼く。 墨を零したような空に浮かぶ月に 泣いている。 . 天が遠く広く続き地は猩々緋の敷物で映える日、 東北、陸奥国は軍馬の嘶きを轟かせていた。 「小十郎、」 先陣を切って青毛の愛馬を走らせる政宗は、その背の後方にて走っている小十郎に声を掛けた。 澄んでいる空気を切る肌が少し痛む。小十郎はしかと政宗の背を見つめた。 「最近やけに苛立ってるらしいな」 「その様な事は…」 苛立ち、そう言われ言葉を濁す。周りに見せていたつもりはないが滲み出ているものがあった様だ。 政宗の声音からして茶化している、とは違うそれに小十郎は手綱を握る手に力を込めた。 小十郎は苛立っていた。 正しくは怒りの感情に流されやすい己に、苛立ちを覚えていた。 徳川の鴉、半蔵と知り合ってからと言うものの容易く心をかき回される事に苛立っていたのだ。 強くならねばならない。そう幼い頃から思っていたと言うのに、己はこうも弱い。 小十郎は苦虫を奥歯で噛み締めた様な顔を歪ませた。 「己が未熟だと痛感しておりました。ですが支障は御座いません」 馬の腹を蹴った小十郎は政宗の横に躍り出ると強い眼差しで見据えた。 「政宗様、此度の戦は先駆けはこの小十郎に」 「先急ぐな。勇むなんてそれこそお前らしく…」 「双頭の陣で御座います。挟撃をし一気に畳み掛けるのです」 今は戦である。己の失態などにかまけている時ではない。 小十郎の顔つきはもう軍師のものであった。政宗の隻眼に映ればもう言葉など必要ない。 小十郎は 「恐悦至極」 と一言置くと一軍を引き連れ本軍から離れて行った。愛馬と共に戦場を駆ける。 その昂揚感は武人であれば誰しも感じる感情である。だが小十郎はあえてその想いを殺し 先を見据えていた。目指すは小手森城。裏切り者である大内定綱の支城を陥落させる為だ。 小十郎は元より政宗に小手森城を攻略させるつもりはなかった。 優しい政宗の事、葦名家に懐柔させられた定綱を許す可能性があるからだ。 世は無情の戦国時代。明日には弟でさえ叛旗を翻すような世である。 他者を信用し切ってはならない。優しさに付け込まれてはならないのだ。 『分かっておるな、小十郎』 伊達家老中の面前にして頭を深々と下げる。 『伊達の名を轟かす大義をお主が担うのじゃ』 『はっ』 『伊達を裏切れば、どうなるか。お主は鬼となるのじゃ』 『心得て御座います』 今までそうして来た様に、今回もやればいい。 策通り先に城に着いたのは小十郎率いる別働隊。その数少なきと見た定綱が何か言っているが もう小十郎の耳には届いていなかった。目の前に居るのは伊達家、政宗様の御手を振りほどいた逆賊。 伊達家に仇なす者。それだけで冷たい怒りが身を駆け巡る。 「テメェらは後方から続け!!間違っても俺の前に出るんじゃねェぞ!!」 深呼吸をして蹴り上げた。 「伊達が軍師、片倉小十郎!押し通るッ!!」 門を突破し白刃を振り下ろす。門兵の骨を砕く手ごたえと血雨の暖かさに身を委ねる。 鬼になるのだ、小十郎。伊達家の鬼として、出る杭を打つのだ。 途端に城は断末魔と雄叫びに騒乱と化す。 「定綱出てきやがれ!!テメェ、恩を仇で返した事に詫びすんなら前に出て腹掻っ捌け!!」 飛ぶ首級、もう数えはしなかった。 「テメェの命一つで他は伊達が面倒見てやるっつてんだ!!」 何処にいるかも知れない定綱に向けて打開策を叫ぶ。 だが返答もなければ姿すら見えない。そんな主を護らんが為に壁となる兵を切り捨てた。 「鬼だっ伊達の鬼だぁあああっ」 「血も涙もねェ鬼がぁああああっ」 城には明らかに兵ではない者が武装し得物を震える手で握っていた。 疲弊していた大内軍である、領民さえ駆り出しているのだろう。本来なら農具を持つ農民が 戦の最前線に追いやられている。その事実に反吐が出そうだった。 「母ちゃんおらぁ帰るから!絶対帰るんだぁあああ」 刃が閃く。 「…俺は何度、」 小十郎はそう呟くと切り伏せた。 定綱は小十郎が城に押し入り侵攻し始めた頃には兵を民を己の妻子まで捨て城から逃げ出していた。 その事実が城内に知れ渡る頃には主を失った兵も民も絶望し戦う意思さえなくしていた。 当然だ。主が見捨てたのだから。士気が下がるのも自然だった。 遂には小十郎に平伏し命乞いをし始める始末だった。 「定綱は伊達を裏切った。定綱はテメェらを捨てた。それは拭えない事実だ」 残兵が平伏する中、小十郎は残酷な程、澄み渡っている天を仰いだ。 すすり泣く女子供の声、帰りたいと嘆く民、どうか民だけはと懇願する兵。 その姿に伊達の者でさえ目を伏せる凄惨な事実を小十郎は口にした。 「撫で斬りだ。女子供一人残らず城から出さねえ」 血しぶきが散らばっていた猩々緋の葉を更に赤く染めていく。 これは見せしめでもある。裏切られて尚もナメられている伊達家と他国に思われない為の致し方のない事。 ただ汚れ役は一人でいい。小十郎は決して他の者の手出しを許さなかった。 伊達の兵さえ声が掛けられない、その中、 「小十郎…?」 政宗が到着した様だ。小十郎は懐紙で白雪を拭うと刀を収めた。 「どういう事か説明しろ小十郎」 「申し訳ありません、政宗様。やはり貴方の御手に煩わせるものではない、」 政宗の腕が乱暴に小十郎の胸倉を掴み上げる。 激昂してることは言わずもが感じていた。いやこうなる事は分かり切っていた。 「どういう事か説明しろ!小十郎!!」 「……定綱が弁明さえされなかったので撫で斬りに致しました」 「…!俺の許しもなく関係のない民まで…!」 「政宗様、これは致し方なく」 表情一つ崩さず政宗を見つめる。 此処で撫で斬りをしなければ伊達の盤石弱しと見られ他の分家にまで叛旗を翻されかねない。 これは必要の犠牲であるのだ。 「…しかし、出過ぎた行動でありました。政宗様が望むのあれば此処で腹を…」 それは政宗も十重に分かっている事だった。 ゆるりと力を緩められ小十郎は深々と頭を垂れた。 「今後は俺を出し抜くマネすんな」 「はっ」 戦に疲れた兵を引き連れ城に戻る最中、小十郎は一人、隊の最後尾で馬に揺られていた。 血なまぐさい今の己にどちらが鴉か、とあの男なら言うだろうか、などと考えながら 今頃火柱を上げ燃えている小手森城に祈りを捧げた。 続
読者になる
Heart
あとがき
*お借りしました
赤間さん宅:伊達政宗様
ゆるゆると景綱の過去が紐解かれていければな…と!
閲覧ありがとうございました。
Hearts
応援メッセージ
コメントするにはログインする必要があります
次へ : 番外編壱:病犬の戯言
其の弐:燃ゆる猩々緋 : 前へ
漆原 白
お友達申請
お気に入り
鴉と野犬【半景】
漆原 白
2017/03/16 00:53
全6話
を送るにはログインする必要があります