TEGAKI
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漆原 白
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其の弐:燃ゆる猩々緋
山々が真っ赤に燃える季節。 最悪な出会いをした者たちは 刃を交えるのか、それとも心を交えるのか、 物語は序章に過ぎない―――― . 陸奥国、青葉山は秋の訪れをその猩々緋の衣を纏う事で人々に告げていた。 まるで燃え盛る火の色が移った様な、火を吐く竜の様な荘厳さや美しさがそこにある。 己の屋敷から仰いでいた小十郎は髪と同じ鶯色の瞳に赤を灯らせた。 「何か掴めたか?」 その言葉に応えるかの如く物陰からぬるりと姿を現すは伊達忍衆が黒脛巾組の一人、網走。 全てを黒に纏った網走は仰々しく身を屈めると感情の色さえ浮かべない漆黒の瞳に小十郎を 映した。感情の欠如、命令に従順で情に流されず余計な事をしない。 それが網走という鴉である。 「徳川はこれと言った目立つ行動はない」 「傍らの鴉はどうだ」 「服部半蔵、徳川十六神将が一人。 伊賀の里出身、ぴちぴちの23歳。身長182、体重は秘密♡スリーサイズは…」 「ちょ、ちょっと待て」 異様な事を口走り始めた網走にぎょっとした小十郎が口を挟む。 茶化すような鴉ではない筈だ。嫌な予感が脳裏を過った。 己の屋敷だから武装してる筈もなく唯一、身を守れるのは腰に差した脇差のみ。 自然と間合いを求める躰が砂利を鳴らす。ゆっくりと網走に視線を合わせれば網走もゆるりと立ち上がった。 「…如何した、片倉様?」 「……網走は俺をそう呼ばねェ、軍師殿だ。テメェ、何者だ…」 「なんだ。今度からは気を付けよう」 不意に突風が吹き、視界が途切れる。 再び視界に光が射し込む頃にはひらひらと紅葉散る中、徳川が半蔵が佇んでいた。 「服部、半蔵…!」 半蔵は悪びれる訳もなく小十郎を一瞥すると宙を舞う紅葉の一つを手に取る。 あまりにも鮮やかな手つきに、刹那にして緊張感が高まった。 「…陸奥に何用だ」 「それはお互い様だ。伊達が徳川に鼠を忍ばせた様に徳川も然り」 筒抜けだった、その事実に内心、舌打ちを打つ。 半蔵は紅葉をくるくる回し、まるで小十郎なぞ興味がない様な振舞い。 実際、小十郎を暗殺する気ならこんな悠長な事はしない筈だ。 だが、有事があれば直ぐに対応出来るように腕を組む振りをして慣れ親しんだ得物の柄に手を添えた。 *** 「片倉小十郎。八幡神社神職、片倉景重の次男。身長183、体重70、得物は白刀白雪。 智武共に優れ神職の出でありながら伊達政宗の近習に、軍師にまで上り詰めた、叩き上げの武人」 わざわざ調べたのか、つらつらと小十郎の情報が零れ落ち、少しは情報管理を見直すかと 思う。小十郎は冷ややかに半蔵を見た。 「本名は片倉、景綱」 鋭い眼光がぶつかり合う。息が詰まりそうな身が焦げる様な空気に先に切り込んだのは半蔵だった。 景綱、それは確かに片倉小十郎の本名であり忌むべき名でもある。 この名を呼ぶ者が次々と小十郎の傍から離れていく、忌々しい名、呪われた名だ。 そう、最初は名づけ親である父から始まった。 小十郎が片倉家に生まれ間もなく“景綱”と呼んだ父、景重が突如として姿を消した。 以後、景重が小十郎の前に現れる事はなく、唯一の形見が小十郎がぐずった時に必ず奏であやしたと言う 篠笛のみだった。故に小十郎は父の顔はおろかどんな父親だったのかさえ知らないのだ。 次に小十郎が歩き言葉を喋り始めた頃、“景綱”と慈しんでくれた母が病に伏し、そのまま他界。 朧げではあるが死ぬ間際まで優しく笑っていた美しい母の顔を覚えている。 幼くして両親を失った小十郎は男児に恵まれなかった家へ養子へ出されたが“景綱”と 可哀想にと憐れんだその家に男児が生まれると掌を返す様に異父姉の喜多の元へ戻された。 喜多は親代わりとして時には優しく時には厳しく神職の子ではなく一武人として全てを 与えてくれた唯一の肉親だった。喜多は非常に強かった。 兵書を好んで読み武芸に優れ智さえ劣らない、そんな女性である。 小十郎にとって母であり姉であり師であり“景綱”と全てを教えてくれた。 だが、喜多も小十郎が齢6に伊達家に召し抱えられ会えなくなった。 時を同じくして喜多の口添えと時の運を味方に付けた小十郎は間もなく伊達家に召し抱えられることになる。 そこで出会った、同い年の同期であり“景綱”に友を教えた親友も失い、 小十郎を引き上げ、小十郎の名を与えてくれ生きる道筋でさえ導き“景綱”と 父の様な暖かさを与えてくれた伊達輝宗さえ、 小十郎は容易く失ったのだ。 “景綱” そう呼び親しむ者は小十郎から離れていく。 “景綱” そう呼び苦楽を共にする者を小十郎は守れないのだ。 そして、小十郎は失う痛みに耐えられず、この名を誰かが呼ぶことを許さなかった。 今の主である政宗にも決して呼ばせない程に。 恐ろしいのだ。 「その名を軽々しく口にするな、鴉が」 「何故だ?真名なら問題はない筈だ」 「テメェに呼ばれたかねェんだよ…失せろ」 誰かと親しくなることも。 「今すぐ失せろ、俺の前に現れるな、」 この心の内に誰かの名残を落とされるのも。 「……どう呼ぼうと勝手だ」 とてつもなく恐ろしいのだ。 肌を撫でるひんやりとした秋風が、弄ばれていた猩々緋を揺らし彼方へと持っていってしまう。 もうどれくらいこうして睨み合っているのだろうか。小十郎の金色の耳飾りがちり、と揺れた。 「これ以上、此処に居た所で時間の無駄だ」 「もてなすのが伊達の流儀ではなかったのか?」 「…もてなせば大人しく帰ると今すぐ誓えるならな」 南蛮の祈祷なのか、胸の前で十字を切りあーめんなどと唱えた半蔵に小十郎は女中を呼び付けた。 「適当にもてなしてやれ」 突然の来訪者に目をぱちくりさせる女中に目もくれず自室に上がる。 「誰も俺がもてなすとは言ってねェ。政宗様の流儀を俺もすると思い込むのはお角違いだ、鴉」 目でさっさと上がれと促し、ぴしゃりと障子を閉める。すると部屋をぐるりと見渡していた半蔵は顔色一つ変えずに 「閉め切って乱暴する気デショ!春画みたいに!」 と茶化す。言っている事が理解出来ないが小十郎は苛立ちを抑え定位置に胡坐をかいた。 此処だけの話、今まで伊達の者ではない客を屋敷に招いたことがなかった小十郎である。 それがまさか、徳川の忍が上がり込んでくるとは思いもしなかった。 「馬鹿な事を言ってんじゃねェ。客人なら客人らしく静かにしてろ」 「…ノリが悪いと言われるだろう」 「真顔で茶化す野郎よりかはマシだ」 「そんな奴がいるのか…」 思わずため息が漏れる。此処まで飄々とした人間が居るだろうか。 素で怒鳴りつけたくなるのを必死に抑え、座った半蔵を改めてしげしげと眺めた。 「此処は俺の屋敷だ。変な事をしてたたっ斬られても文句言うんじゃねェぞ」 芥子色の髪を垂らした端正な顔立ち。 黙っていれば男前の分類に入ると思う。 黙っていれば、だが。確かに漢臭い伊達には居ない型だ。 だからこそいなせないのかも知れないなどと考えていると、女中の影が障子に浮かび上がる。 「入れ」 女中は障子を開けると恭しく頭を下げチラりと半蔵を見ては直ぐに手元に視線を落とした。 「小十郎様、本日は政宗様から加須底羅を頂いております」 「…分かった。後でお伺いする」 「はい」 半蔵が気になるのかチラチラと落ち着かない 女中を早々に下がらせ加須底羅を勧める。 そんなに甘味のないふわふわな加須底羅は最近になって陸奥に入ってきた南蛮菓子である。 茶を啜りながら未だ感触の慣れないそれに舌鼓を打った。 *** 食に重きを置く伊達に毒を盛るなど無粋なマネはしないと調べたのか訝しまず口にした半蔵。 それを眺めながら小十郎はこの男を推し量るにはどうしたらいいものかと手をこまねいていた。 「済んだなら帰れ」 まるで水面に映る月を掴もうとしている様な気分になる。目の前に居るのに掴めない。 触れられそうで触れる事さえ出来ない。真実を映している様でそうではない。 目の前の男はそんな風にさえ感じる。 「景綱」 「言った筈だ、テメェがその名を口にするな」 耳触りの良くない言葉。 「俺は片倉小十郎だ」 聞きたくはない言葉。 「徳川の鴉、テメェがどんな優秀な鴉だろうとも此処は竜の庭だ。竜は鴉も飼いならす。目には目を、鴉には鴉を」 手を叩けば影からぬるりと黒脛巾組の者共が現れる。そこに網走の姿もあった。 「テメェのケツはテメェで拭え」 まるで自分に言い聞かせる様に呟く。 小十郎の言葉を切って黒は半蔵目掛けて突っ込んで行った。色は時にもつれ合い 弾きながら障子を破って外へ飛び出す。小十郎も続いて縁側へ出ると目を細めた。 庭での鴉の競り合い。それが猩々緋の景色へ消えて行く。 「嵯峨、俺は、もう2度と……」 紅葉は風に揺れ、鴉の名残を消して行った。 続
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Heart
あとがき
*お借りしました
さとび宅:服部半蔵君
出会い編まだまだ続きます…!
閲覧ありがとうございました。
Hearts
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漆原 白
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鴉と野犬【半景】
漆原 白
2017/03/16 00:53
全6話
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