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ハルキャベツ
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a little pain
ブラッドブリードとは、DNAに直接術式を書き込まれた元人間であり、高い戦闘力と不死の体を持つ非常に厄介な相手のことだ。 ライブラの主力メンバーの力を持ってしても完全に滅ぼすことは不可能。 「神々の義眼」を保有するレオナルドが諱名を読み取り、その存在があらわになって初めて、クラウスの血闘術による封印が可能になる。 そのため、ブラッドブリードとの戦闘にレオナルドの存在は必要不可欠であり、ザップの役割は大抵、戦闘力ほぼ皆無のレオナルドを「お守り」することであった。 ブラッドブリード2体が出現したと連絡があったのは、ザップがレオナルドと「ダイアンズダイナー」で食事していたときのことだった。 2体の出現位置はバラバラで、すでにクラウスとスティーブンは出動済みとのこと。 レオナルドを連れてすぐ合流するよう、ザップに要請があったのだ。 「ビビアンちゃん、悪ぃ。ごっそさん」 「あいよ。気をつけてなー」 カフェの店員に声をかけると、馴染みの客のよくある奇行と捉えているのか、気安い返事があった。 注文した料理のほとんどが手つかずで皿の上にあるにも関わらず、だ。 食べかけのバーガーを口いっぱいに押し込んでいるレオナルドにも声をかける。 「レオ、行くぞ」 「ふぁい」 かく言うザップも未練がましくポテトを一掴みして、口に放り込みながら「ダイアンズダイナー」を後にした。 1体をツェッドとK・Kが足止め。 もう1体を封印した後に合流するという作戦だったのだが、相手が長老級の強者では思い通りになるはずがない。 クラウスたちより先に、ブラッドブリードと落ち合う羽目になった。 ザップたちをライブラの一員と見なして、攻撃に来たわけではなかった。 人で混み合う通りに出現したそれは、単に食事のために姿を現しただけだった。 人の生き血を啜り、死体をグールに変えて己の兵隊とする。 被害者たちには気の毒だったが、遠慮している場合ではなかった。 ザップは愛用のライターを取り出して、付属の針で手のひらを傷つけた。 傷口から出た血液を操り、真っ赤な大太刀に変化させる。 「斗流血法 刀身ノ壱 焔丸」 その間にレオナルドは、ブラッドブリードに遭遇したことをクラウスに報告したようだった。 慣れたものでぴたりとザップに張りついている。 「離れるんじゃねーぞ」 「あんまりよくない状況すかね」 「そーだな」 周りはグールに囲まれていて、襲いかかるそれを刀で凪ぎ払った。 ブラッドブリードに比べたらどうってことない相手だったが、それはザップにとっての話だ。 レオナルド単体でここから離脱するとなると、無傷で済まないどころか、たちまちヤツらの仲間入りだろう。 背後に庇いながら戦うしかない。 「諱名は?」 「読めました。食事に夢中で気づかれなかったみたいっす」 「もう目は使うなよ」 「でも」 「まだ一匹いるんだ。悟られたくねえ」 「分かりました」 「神々の義眼」のことを知れば、ブラッドブリードは間違いなくレオナルドを狙ってくる。 多勢に無勢のこの状態で、それだけは避けたかった。 短い言葉であったが、レオナルドにはきちんと伝わったはずだ。 「あ、気づかれたみたいっすね」 「ああ」 ブラッドブリードは所謂、吸血鬼というやつで、姿形は人とそう大差ない。 ザップたちの目の前にいるのも普通にしていれば、ただの女にしか見えなかった。 長い黒髪を揺らして、血にまみれた美しい顔をこちらに向けている。 次々に歩く死体となっていく人々の中で、ザップたちだけがまだ健在であった。 背中を見せて逃げ出すわけにはいかなかった。 50ヤードほどあるこの距離も、彼女ならば一瞬にして詰めることができるのだから。 「活きがいいのがいるじゃない。少しは退屈せずに済むかしら」 女が微笑んだと思った瞬間、それは始まった。 冗談のような長さになった両手の指を翼のように広げ、彼女は無数の攻撃を浴びせかけてきたのだ。 ザップはこれに、出せるだけの血刃を出して対応した。 それでも弾ききれなかったものがザップの身体を掠めて血を滲ませた。 「あら、健気ね。そんなにその坊やが大事?」 重症度の高いものとレオナルドに届くものだけを確実に叩き落としていく。 それだけで精一杯だった。 「いいわぁ。お友達が傷ついたとき、あなたはどんな顔をするのかしら?」 大鎌のようなものが両肩から突き出し、明らかにレオナルドを狙った攻撃が加わった。 ザップの手数は限られているため、自分への守りを削って対処するしかない。 出血箇所が増えていく。 グールたちが沈黙しているのも不気味だった。 これだけの人数をけしかければ、一気にケリがつくはずなのに。 遊んでやがるのか。 そう思うが、どうすることもできなかった。 「フフ。このままじゃ、面白くないわね。そうだ、鬼ごっこをしましょうよ」 女はそう言って、ザップのすぐ近くまでその顔を寄せた。 「ね、坊や」 攻撃の手が緩くなった。 ザップに考える余裕が生まれる、絶妙なさじ加減で。 頬に冷や汗が伝うのを感じながら、ない頭をフル回転させた。 女の言う通り、このままやり合ってもレオナルド共々、なぶり殺しにされるのがオチだ。 鬼ごっことやらに付き合ったらどうか。 うまくいけばレオナルドは逃げ切れるかもしれないし、ザップも足枷が外れて戦い易くなるかもしれない。 どちらにしろ今より時間稼ぎはできるだろう。 「レオ、行け」 「ザップさん」 「『どんな手』を使っても、必ず逃げ切れ」 暗に「目を使え」という意味を込めて。 レオナルドが走り出す気配がした。 「じゃあ、数えるわね。いーち」 女は遠ざかり、間延びした声とは正反対に激しくザップを攻め立てた。 レオナルドがどうなったのか探る術もなく、ザップは血の刃を振るうしかなかった。 「さーん……、ああ、もう。数えるのが面倒になっちゃった」 「なっ、てめえ……!」 それまで動かなかったはずのグールたちがザップの後方目掛けて一斉に走り出した。 もともと女の気まぐれに乗った賭けではあったが、もう少し勝算があると踏んでいたザップは焦りに焦った。 だが、こういうときの優先順位はずっと前から決めていた。 ザップは直ぐ様、攻撃対象をグールたちへと変えた。 「つれないわねぇ。そんなにあの坊やが大事なの?」 腕や太ももが大きく割け、大量の血が吹き出した。 わざと致命傷を避けた攻撃に、彼女にとってはこれも遊びの一環でしかないことを思い知らされた。 「ほら、ほら! 早くしないと、お友達に追いついちゃう」 彼女が遊びに飽きるのが先か、ザップが失血死するのが先か。 レオナルドの姿は見えなかった。 逃げ延びて、クラウスと合流できることを願うしかない。 とうとう地面に膝がついた。 ザップの血刃を次々と逃れていくグールたち。 「ほら、見て。あなたがこんなに一生懸命頑張ったのに、カワイソウ」 女の白くて冷たい手が、ザップの顎を上向かせた。 それでもやっぱりレオナルドを見つけることはできなかった。 「ねぇ、どんな気持ち? 悲しい? 悔しい?」 「いつかこんな日が来るって、思ってただけだ。たいして悲しくもねえし、悔しくもねえよ」 「そう、おやすみなさ」 それは突然の出来事だった。 目の前で腹を蹴られた女が身体を折ったと思ったら、ザップは何かに引っ張られて後方に下がっていた。 そのまま転がるようにして、デカイ図体をしたグールの背後へと隠れた。 何が起きたか理解する前に、本能がザップにそう行動させていた。 「動けますか?」 「バカ、何で戻ってきた」と罵りたいのを我慢し、ザップは血液を操作して自分の傷口を止血した。 そうしてから残り少なくなった体内の血をまんべんなく循環させ、朦朧としていた意識を回復させた。 戻ってきてしまったレオナルドを責めたところで時間の無駄だった。 だからザップは今、自分ができる限りの最善を尽くすしかなかった。 「目は大丈夫なのか」 「ちとキツイっす」 「どのくらい持つ?」 「あと2分くらい」 レオナルドの義眼は酷使すると熱を持つらしく、すでに目のまわりは焼けて傷ついていた。 おそらく、ブラッドブリードだけじゃない。 ここにいるグール全員の視界をも支配しているのだろう。 ザップは身体に張りついた血液をかき集めて、血刃を3つ出現させた。 そしてレオナルドを背後から抱きしめ、自分の身体で囲うようにして守った。 いつレオナルドの限界が訪れてもいいように。 「60秒。それだけ耐えれば、クラウスさんたちが到着します」 「分かった」 「お願いします」 レオナルドが言い終えた瞬間、グールたちの視線がザップへと集まっていた。 「なるほど。『神々の義眼』保有者だったってわけ」 女は納得したように頷いて、それからザップへと毒牙を伸ばした。 先ほどと比べてゆっくりとした動きではあったがその一撃は重く、弾くたびにザップの身体が揺らいだ。 60秒も耐えることができるのか。 いつものように自信が持てない。 それでも手の中にあるこの命だけは、守り通さなくてはならない。 あと50秒。 止血をしたとはいえ、すぐにできた新しい切り傷から血が溢れていく。 あと45秒。 ボヤけた視界に何となく見えた攻撃。 受けきれずにレオナルドを抱えたまま吹っ飛ばされる。 あと40秒。 必死に集めた血も今ので霧散してしまって、ザップにはもう防衛手段が残されていなかった。 女が振りかぶる大鎌を前にどうすることもできなくて、レオナルドを抱きしめる手に力がこもる。 チクショウ。 俺がもっとうまくやれていたら、コイツを死なせずに済んだはず。 ガガガガ ギューン 聞き慣れた銃声がした時、ザップは思わず呟いていた。 「何で姐さんが……?」 「もう一体は低級でしたので、復活には時間がかかるはずです。後回しにしても問題ないと判断して、こちらに」 説明の間に三ツ又の槍をもって応戦するツェッドだったが、K・Kの射撃も止んでいないというのに、みるみるうちに傷だらけになっていった。 「エスメラルダ式血凍道 絶対零度の剣」 スティーブンが蹴りを打ち込み、氷の剣が女を串刺しにした。 ボロボロと崩れたそばから復活していく彼女に、休む間もなく攻撃が与えられていった。 自分たちよりも遥かに戦闘力の上回る化物を相手に、皆が皆、疲弊していく。 「ウルエルヴァルカ・ホムルウェル・ロッソ・マホメルド・ウン・サミールノエル」 待ち望んでいた声がした。 「貴方を密封する」 その言葉を最後に、ザップは意識を手放したのだった。 ********** ザップが目を覚まして最初にしたことといえば、レオナルドを探して病院を徘徊したことだった。 集中治療室にいた看護士たちが止めるのも構わず、廊下を歩くこと10分ほどで目的の場所にたどり着く。 入院病棟3階の個室。 クラウスを始めとしたライブラのメンバーが集まる中、ベッドの上に座るレオナルドに向かって、ザップはあらん限りの声を張り上げて言った。 「何で俺の指示に従わなかった!」 「ザップさん!?」 包帯をぐるぐる巻きにされた目では、ザップのことを認識できなかったらしい。 レオナルドの声には驚きが混じっていた。 「俺は『逃げろ』っつったんだぞ!」 ザップは腹を立てていた。 ザップが命懸けで逃げ道を用意してやったというのに、自分を助けるために戻ってきてしまったレオナルドに対して。 あの場にいた全員の目を欺くことができていたのなら、そのまま姿をくらますことも可能だったはずだ。 「てめえみてーな甘ちゃんとはもう組まねえ! 妹の目のこたぁ諦めて、とっととイナカにでも帰っちまえ!」 「勝手なこと言わんでください」 「勝手なのはてめえだろうが! 危うく二人まとめてあの世逝きだったんだぞ!?」 「じゃあ何ですか。あんた見捨てて逃げてりゃよかったって、そう言うんですか?」 「たりめえだろが! ヤツら相手に寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ!」 「まあまあまあ、落ち着いて」 呑気な声でザップたちのやり取りを遮ったのは、ここ幻界病棟ライゼズの女医、ルシアナ・エステヴェスだった。 元は人間であったが、ある事故をきっかけに分裂する能力を身につけ、そのすべてを患者のために捧げていた。 「あんまり暴れると、傷口開くよ。君、まだ危ないからって、集中治療室にいたはずだけど?」 「すみません、ミス・エステヴェス。こいつは僕が責任を持って、病室に戻しておきますので」 そう言ってザップの腕を掴んだのはスティーブンだった。 「番頭。悪ぃけど、話はまだ」 「ほら、行くぞ」 有無も言わさぬスティーブンの鋭い目線に、ザップは従うしかなかった。 半ば引きずられるようにして、レオナルドの病室を後にする。 しばらく無言で歩いていたが、カフェテリアの前で呼び止められた。 言われるがまま着席し、テーブルにはコーヒーが2つ。 もちろんスティーブンのおごりだ。 正直こういうのが苦手なザップはどうにも落ち着けず、ただひたすらにスティーブンが話し出すのを待っていた。 「二人とも生きてるんだから、いいじゃないか。素直に喜べよ。お前らしくもない」 「今回はいいっすよ、それで。けど次は分からないじゃないですか。俺を助けてアイツが死んだんじゃ、胸クソ悪すぎなんですよ」 「それは少年にも言えることじゃないのか」 「俺とアイツじゃ、話が違う」 スティーブンは大げさなまでに溜め息を吐いて言った。 「我々はブラッドブリードに対する切り札を失うわけにはいかない。そう言いたいんだろ?」 ザップは肯定の意味で頷いた。 「少年には俺からも話をしたさ。そしたらアイツ、何て言ったと思う? 二人とも生き残る勝算は十分にあったと、そう言い切ったんだぜ」 スティーブンは笑いながらそう言ったが、何が面白いのか、ザップにはさっぱり分からなかった。 勝算なんてものはないに等しかったし、そもそも戦えないような人間が口にしていい言葉ではない。 「諦めて引き返すには半歩ある。全身全霊を賭けた半歩だ、とクラウスに言われた時のことを思い出したよ」 「旦那くらい強けりゃ、俺だって」 「アイツはよく見てるよ。敵の動きのことだけじゃない。その心情、思惑。そこから派生する振舞いに至るまで」 ああ、そんなことは知っている。 胸中の思いを顔に出さないなんて器用な真似はできなかった。 苦虫を噛み潰したような表情をするザップ。 しかしスティーブンはそれを咎めることなく話を続けた。 「その上で、味方の行動パターンから自分ができることを分析して実行する。アイツの強かさは、お前が一番よく知っていると思っていたけどな。違うか?」 「何が言いてーんですか」 「ザップ、誰かを大切に思うことは悪いことじゃない」 何を言われたか理解できなくて唖然とするザップに、スティーブンが追い討ちをかけた。 「少年を逃がすことばかり考えていたお前と、守られるばかりじゃなくてお前を助けようとしたレオナルド。どちらもそう大差ないと言ってるんだ」 ますます訳が分からなくなって、とうとうザップは考えることを放棄した。 「何すか、それ。言ってる意味がぜんぜん分かんねーです」 「お前たちは、お互いにお互いを死なせまいと全力を尽くしたわけだろう? お前は腕っぷしの強さを。アイツはあの目と思慮深さを武器に。いい相棒じゃないか」 「冗談キツイっすよ、番頭。あんな陰毛糸目の変態眼球野郎なんてただの子分なんだから、先輩である俺の言うこと聞いてりゃいいのに生意気にもでしゃばりやがって」 「たった3週間ばかり距離を置かれたくらいで腑抜けになった男のセリフとは思えないな」 「ぐぅ……!」 痛いところを突かれて恨めしげな目を向けると、スティーブンは肩をすくめて両手のひらを上げて見せた。 「お前にもアイツにも道理はあるだろうが、お互いに貫けばいいさ。俺たちもそうやってきたし、それで『次』がうまくいかなかったこともない」 言いたいことだけ言われたような気がして、何だか釈然としない。 そんなザップを見透かしてか、スティーブンが言った。 「年長者の戯言だと思ってもらってもいい。だが、たまには真面目に考えてみるのもいいもんだぞ。少しは頭も冷えただろ?」 「さてと」とスティーブンが席を立った。 「部屋には一人で戻れるな?」 「うっす」 コーヒー片手に去っていくスティーブンの背中を見ながら、ザップもぬるくなったそれに口をつけた。 スティーブンに言われるまでもなく、レオナルドが根性座ったやつだということは知っていたし、ザップを見殺しにするような男でないこともよく分かっていた。 ブラッドブリードの諱名を読める存在として命を優先させたのは確かだったが、自分が死んでりゃよかったのかと問われればそれにはノーと答えるだろう。 じゃあ何が気に食わなかったのかと言われると、それはやっぱり「自分を助けるために死ぬほどの危険を冒したこと」と答えるしかなかった。 一度冷静になってしまったからか、再びレオナルドを怒鳴りつける気にはなれなかったが。 モヤモヤとしたものを抱えてウジウジ考えるのは性に合わない。 最後の一口を飲み干して立ち上がると、ザップはレオナルドの病室へと足を向けたのだった。 ********** 見舞いに来ていたクラウスたちの姿はなく、薬で眠らされているのか、レオナルドは規則正しく静かな寝息を立てていた。 あちこちに包帯を巻かれているところを見ると、目もとの怪我だけでは済まなかったようだった。 ザップを助けるために翻弄した結果だろう。 ベッド脇に置かれた椅子に座って1時間。 ザップはレオナルドとの話にケリをつければ少しは気持ちが晴れるかなと思っていたのだが、肝心の相手が寝ていて拍子抜け。 叩き起こしもせずにただボンヤリと、そのマヌケな寝顔を眺めていた。 「う……ん……?」 レオナルドが目を覚ました時、ひどく動揺した自分がいることにザップは驚いていた。 何を言えばいいかも分からず、相手の目が見えないのをいいことに黙りを決め込んだ。 レオナルドも当然、何も話しはしないし、目が使えないとなると雑誌を読んだりといった暇潰しも難しい。 沈黙を破ったのは、ルシアナ医師のノック音だった。 ザップが慌てて「自分がいることは黙っていてくれ」と身振り手振りで伝えると、それを解したのかルシアナは、ザップをいないものとしてレオナルドの診察を始めてくれた。 「痛み止が効いてるから、よく寝られたでしょ」 「先生……はい、おかげさまで」 「バイタル、チェックするから」 「お願いします」 分裂すると幼い子どものような姿になるルシアナだったが、医者としての腕は確かで、手際よく作業していく。 そして「異常なければ2、3日で退院できると思うから」と言って去ろうとするルシアナを、レオナルドは遠慮がちに呼び止めたのだった。 「ザップさんの体の具合って、どうなのかなーって」 まさか自分の名前が飛び出すとは思わず、ザップが狼狽えていると、ルシアナは平然とした様子でトンデモ発言をぶちかましてくれた。 「本人が目の前にいるんだから、直接聞いたらいいと思うよ」 「ちょ、先生……!」 「えっ! ザップさん、いたんですか!?」 「それじゃ、お大事に」 今度こそ本当にルシアナが退場してしまって、取り残された二人の間に気まずい沈黙が流れた。 意地を張っているつもりはなかったがどうしても最初の一歩が踏み出せないザップに代わり、口火を切ったのはレオナルドだった。 「まだ怒ってます?」 「……」 「ザップさんが話してくれないと僕、独り言を呟く変な人になってしまうんすけど」 「……」 「まだ、いてくれてますよね?」 「……おう」 返事をするとレオナルドは、嬉しそうに口元を綻ばせた。 「体は大丈夫なんですか?」 「いつからそこに?」 「部屋、戻らなかったんですか?」 矢継ぎ早に出る質問に、じわじわと感じるむず痒さ。 耐えきれなくなったザップはそれらを「うるせえ」と一蹴して、それから仕切り直しだと言わんばかりに、始めの質問を繰り返した。 「何で俺の指示に従わなかった?」 「あんた一人じゃ、ヤバそうだったんで」 レオナルドの言葉には、一切の迷いがなかった。 「いつから目を使ってやがった?」 「最初からっすね。ポケットの中のスマホで、クラウスさんと連絡取り合ってたんで。ヤツらの視覚操作は、あんたに『逃げろ』って言われてからですけど」 悪びれる様子もなく淡々と質問に答えていく。 「旦那と合流して、2匹目に備えるべきだったろーが」 「逃げ切るのは無理だったと思いますよ。視覚は誤魔化せても、臭いや音は別物っすから」 「でもおめえ」 「グールの一匹に自分の上着被せて、そいつに身代わりになってもらったんです。ブラッドブリードの方はあんたとのお遊びに夢中で気づかなかっただけで、それがなかったら僕なんか瞬殺っすよ、瞬殺」 無性に腹が立ってきて、とりあえずザップはレオナルドの頭を一殴りしておいた。 レオナルドはというと「いてぇ。いちおう怪我人」などとボヤいていたが、ザップの知ったことではなかった。 ザップはあの時の「後悔」を忘れてはいなかったのだ。 レオナルドを腕の中に抱き締めて、それこそ死ぬほど自責の念に駆られたあの時のことを。 一度目に死を感じた時はあれほど気分よく逝けると思ったのに、レオナルドが死ぬのは確実となったら悔しくて悔しくて、そうさせてしまった自分をこれでもかと責め立てた。 「ザップさん……?」 ああ、そうか。 俺はレオナルドに死んで欲しくなかったのか。 降って湧いたような閃きにザップは、驚きを通り越して感動していた。 レオナルドが神々の義眼を持つ貴重な人材であるというのは建前であって、ザップは単純に失いたくなかったのだ。 このクソ生意気で口うるさいクソガキを。 「二度と俺の目の前で死のうとするな。誓って約束しろ」 「いいっすよ。ザップさんも俺にそう約束してくれるなら」 レオナルドはしれっと返して、そしてこう付け加えたのだった。 「まあ、どうしてもダメだってときは、二人仲良く逝くのも悪かないっすけどね」 「冗談じゃねえ。誰が陰毛アタマなんかと」「どうせなら美女の腕の中で死にてーわ」と思いつく限りの不平を述べてから最後に「そんなに死にてーなら、俺がいないとこで勝手に野垂れ死んでろ」と吐き捨てて。 レオナルドの病室を出る頃には、わだかまりはすっかり溶けてなくなって、ザップは煙草でも吸うかと鼻歌まじりに廊下を歩いていくのだった。
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Heart
あとがき
「酒もドラッグもセックスもなしで、俺に面と向かって『友達』だなんて言う馬鹿はあいつくらいなもんですよ」ってザップに愚痴らせるために話を考えたのに、書いてみたら思ったよりウジウジしてこんなんザップじゃないってなったので、後半全消しして必死に書き直しました。
スティーブンにも「どーしちゃったんだ、お前」って突っ込まれたところで引き返せて、本当によかったと思います。
ベタだけどカッコイイ男の友情みたいなの目指しましたが、最後までサマにならないのがザップらしい、と書いた本人はたいへん満足しております。
Hearts
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ハルキャベツ
好きなものを好きなように好きなだけ。
小説をピクシブに転載させていただきました。
https://pixiv.me/spring_cabbage
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うちのレオ+ザプ
桐嶋ハル
2017/11/27 12:44
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