TEGAKI
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川棲大間
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記憶のヒーロー
一九××年、夏。夏休みももう残すところ半分といったぐらいだろうか。 八月生まれの穂高汀にとっては、夏は好きな季節であったし、小学二年生の体にはじりじりと照りつける厳しい日差しなどあってないようなものだった。 しかし、その日ばかりは、というより彼にとってはいつもだったかもしれない。 うるさいほどの蝉時雨の中で響く少年たちの声は、汀の心にいつも雨を降らせていた。 「なーきむし!なーきむし!なーきむし!」 囃し立てる少年たちに囲まれ、汀は泣きべそをかきながら蹲っていた。きっといつもと同じように原因は些細なことだったのだろう。ふとしたことで口論になり、いつものようにこみ上げる涙を抑えられずに泣き出してしまった汀を、少年たちがからかう。一通り満足するまで嗤笑した後、少年たちは泣き止まない汀をその場に置き去りにしてどこか別のところに遊びに行ってしまう。そんな、ある意味彼らの日常といっても過言ではない風景だったが、その日は少し違っていた。いつもの悪口雑言に混じって、聞き覚えのない足音が泣きながらしゃがみこんでいた汀の耳に入ってくる。 おそるおそる顔を上げた汀の前に、金髪の女性がかばうように仁王立ちしていた。 「何やってんだガキ共」 彼女は汀をからかっていた少年たちに向かってそう声をかけた。とても綺麗な声だと、汀は思った。 「な、なんだよ。なんでもいいだろ!」 「なんでもよくないだろ。泣いてるじゃねえか」 急に咎められた少年たちは少し怯んだが、立ちはだかる女性を無視してなおも汀を小馬鹿にする。 「汀、おまえ女に守ってもらうのかよ。よーわむしー!」 「男が寄って集っていじめやがって。そっちの方がよっぽど弱虫だぞ」 そう言われてさすがに腹が立ったのか、少年たちは彼女を睨みつける。 「うるさい!お前には関係ないだろ!」 すると彼女は、少年たちに向かってドスの効いた声で凄んだ。 「・・・あ?」 凄まれた少年たちの顔から、一瞬で血の気が引いていき、程なく彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。 はぁ、とひとつため息をついた彼女は、泣いている汀の方に仏頂面で向き直り声をかける。 「大丈夫か?」 すると汀は顔をあげ、彼女の顔を見るなりさらに大きく泣き出してしまった。予期せぬ汀の反応に彼女は困惑し、為すすべもなくおろおろしてしまう。 「おい、どうしたんだよ・・・泣くなよ・・・」 先ほどまでの仏頂面からは想像もできないほど狼狽える彼女の顔が少しおかしくて、泣いていた汀はようやく心なしか泣き止み、そして尋ねる。 「お姉ちゃん不良なの?」 「あ?」 反射的に汀を睨みつけてしまう彼女。 「ご、ごめんなさい!」 汀の肩がビクリと震え、目には大粒の涙が溜まる。ハッとしたように慌てた彼女は、少しバツの悪そうな表情で頬を掻きながらその場にしゃがみ、汀に視線の高さを合わせる。 「あー・・・違う、すまん。怖がらせちまったな。大丈夫、私は不良じゃない」 「よかった、怖い人かと思った」 そう言いながら泣き笑いを浮かべる汀から何故か視線をそらし、彼女はハンカチを手渡す。 「ほら、これで涙拭け」 「ありがとう、お姉ちゃん」 ひとしきり落ち着いた後、彼女は汀に話しかける。 「汀。・・・だったっけ」 「うん。穂高汀。今小学二年生。お姉ちゃんは?」 「私は・・・いや、私のことはいいよ。まあ強いて言うならそうだな、お前のヒーローってところかな。」 彼女は少しだけ照れ臭そうに、そう言ってはぐらかした。 「お姉ちゃんヒーローなの!?」 「まあ、そんなところだ。・・・普段は探偵やってる。」 「そうなんだ。すごいんだね、お姉ちゃん。かっこいい!」 ヒーローで探偵だと名乗ったその二十代前半ほどの女性は、プリン状態になった金髪、幾らかのピアスを着けた耳、そして鋭い目つきと、一般的なヒーローや探偵のイメージとは異なる、いやむしろかけ離れた柄の悪い風貌をしていたが、どうやら汀はなんの疑いも抱かなかったようだった。 無邪気に目をキラキラさせている汀に、女性は話を続ける。 「それで・・・、お前、いつもあいつらに泣かされてるのか?」 「いつもってわけじゃないんだけど・・・でも僕、すぐに泣いちゃうから・・・それで」 「やられっぱなしで悔しくないのか?」 「悔しいけど・・・でも、僕が泣き虫で弱虫なのはほんとのことだし・・・」 「安心しろ。お前は泣き虫だけど弱虫なんかじゃない。それは私が保証する。きっとお前は誰よりも優しくて強い子だ。」 ぐしゃぐしゃと下手くそに汀の頭を撫でながらそう彼女が答えると、彼はぱっと顔を輝かせる。 「ほんと?」 「ああ」 彼の笑顔が眩しくて、彼女は思わず顔を背けてしまう。 「・・・お前は小さい頃から汀だな」 苦笑しながら彼女は小声でぼそりと呟く。 「・・・?お姉ちゃん、何か言った?」 「なんでもねえよ。さあ、送ってやるからもう帰るぞ」 気付けば、夏の空に夜の帳が下り始めていた。 * 彼女はその日から一週間ほど汀の住む街付近で滞在していた。どうやら近くで仕事があったらしく、学校や警察、公園などいろいろなところで聞き込みや調査をしているようだった。 空き時間には汀の相手をしていたようで、汀も彼女によく懐いていた。その甲斐あってか、はたまた彼女に凄まれたのがよっぽど効いたのか、いつも汀をからかっていた少年たちは少なくとも彼女が滞在している間に汀をからかうことはなかった。 ここでの彼女の仕事と活躍については割愛するが、それが汀のことはもちろん、そればかりかこの街を危機から救っていたことは誰の目にも明らかだった。ただ、それを目撃して知っているのは、汀とその近くにいた数人だけであったが。彼女は人知れず、彼と彼の未来を守るために奔走していた。 * 「僕、お姉ちゃんみたいにかっこよくて強くなりたい」 別れの日、汀は彼女に向かってそう言った。あの時、泣きながら蹲っていた少年のものとは思えないほどの力強い瞳がそこにはあった。ただ、その瞳は潤んではいたが。 「そうか。お前ならきっとなれるよ」 「ほんと?そしたら今度は僕がお姉ちゃんのことを守ってあげるんだ」 「おう、期待してる」 「じゃあね!ヒーローのお姉ちゃん!」 「じゃあな汀。あんまり泣くんじゃないぞ。」 そう言って彼女、常世現は彼と別れ、自分が元いた場所、戻るべき場所へと帰っていった。
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Heart
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川棲大間
カワスミオオマ Twitterではおっくんだったり。
いつの間にやら川に住み着いていた鮪。
普段はTRPG(CoC,DX3,etc)やったりシナリオ書いたり。
絵は…描けたら…いいなって…
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Beginning of the HERO
dicekrimd
2017/09/02 17:28
全3話
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