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奇譚「かぐや姫」
片田舎に、いかにも寂れた公家屋敷があった。古い御簾は崩れたまま蜘蛛の巣がかかり、狭い庭には雑草が生え、村人たちは避けて通った。 秋の頃、そこを一人の屈強な男が訪れる。身なりは衛士だが、どこか呑気な、人の良さそうな顔立ちの男だ。 男が何度目か戸を叩くと、ゆっくりと扉が開かれた。 青白くやつれた顔をした細面の下男が顔をのぞかせた。怯えている。 「なに用でありましょう」 消えそうな声をさらに消すように、男は大声で答えた。 「ここに知り合いが訪ねていると聞いて、参った。彼奴が一向に戻らぬことを、家の者が気にかけておる。文を出しても返事はなく、今にも心労で倒れそうになっておる。代わりに迎えに来てやったのだ。聞くが、お主はここの下男か」 「はい。下男でございます。今、この屋敷には私と主人以外はおりませぬ」 「では、どこへ行ったかわかるか」 「いいえ」 「んむむう」 困り顔の男に、下男はさらに青白く、ガタガタと震えながら言った。 「あ、あ、あの、誠に申しづらいのですが、お客人は二度と戻られないと思われます」 「なに。どうしてそう思う。話してみよ。嘘は申すな。そのときは」 「ひ」 「まさかお前まで、化け物屋敷の化け物に食われたとか話すのではあるまいな。村人たちがそう噂しておったぞ」 失笑する男の袖を、下男はすがるように握った。怯える目は潤み、歯はさらにガチガチと鳴る。助けてくれと訴えるように。 まさか。そうなのか。 木陰で屋敷が見えない庭の隅で、下男は話しはじめた。 春先の頃。自分は山向こうに住むお公家様の下男だった。主人はここに住んでいる美人と縁を交わそうと、下男を連れて訪れた。 その時すでに屋敷はこの有様。止める下男にかまわず、物珍しいものが好きな主人は屋敷へ入ってしまった。「どこか」と問うと、なんと奥から、それは美しい声で「こちらへ」と答えがあったではないか。主人は目を輝かせた。 「どこか」「こちらへ」「ここか」「こちらです」 主人は声に呼ばれるように奥へ消えてしまい、しかたなく下男は門前で待つことにした。 陽が2度落ちても主人は出てこないので、下男は主人を呼びに入ったが、求める姿はいなかった。屋敷のかなり奥へ進んだ頃。 「私が新しい主人だ。次の者を私の寝所に連れてこい。客人以外は入れるな。寝所には月明かりも入れてはならぬ」 恐ろしい声が振りかかった。下男は庭の隅に逃げ出した。何度も逃げようとしたが、どうしても門が開かず、出て行くことは諦めた。 しばらくした頃、別のお公家様が訪れた。金銀をあしらった派手な衣を着たお公家様だった。屋敷に住まうという美人に会いたいと話しており、下男が止めても聞かずに屋敷の奥へ入っていった。そしてやはり、二度と姿を見せなかった。 その後、下男は荒れ果てた屋敷の掃除でもしようかと中に入った。立派な鏡が落ちていたので、それを拾った時、いつかの客人の派手な着物が落ちているのが目に入った。なんと血に汚れており、その衣からは、衣の中身を引きずっていったような血の跡が屋敷の暗い奥へと伸びているではないか。まるで怪我をして逃げようとしたところを、捕まえられ引き戻されたようではないか。 以来、下男は屋敷にも近づいていないという。 「私がここに来てから、何人ものお公家様がいらっしゃいましたが、誰一人あそこから戻っておりませぬ。あきらめて、どうぞおかえりください。そしてもし、もしお心がありましたら、山向こうの屋敷の者にもお伝えください」 「帰れと言われたら帰らないたちでな」 衛士は笑った。 「村人は、屋敷には化け物が棲んでいると言っていた。そしてそこにいる下男は、化け物に憑かれている、と言っていた。くだらない噂かと思ったが、お前の話によると、どうやらなにかいるようだ。そいつが寝所でなにをしているのか、知り合いがどうなったか知りたいじゃないか。美人であれば、いかほどのものか拝みたいものじゃないか」 「知って、どうするんです」 「化け物なら倒すまで」 下男は言った。 昼は寝所に向かっても、いつのまにか屋敷から出てしまうこと。 陽が沈んで夜になれば、寝所にたどり着けること。 自分は寝所の手前まで案内できること。 衛士は昼のうちに、屋敷の御簾を切って落としていった。 そして下男に、屋敷中の鏡を集め、どれも磨くように教えた。 その鏡は寝所を囲むように置き、自分が叫んだら寝所の御簾を落とすように、とも。 夜が訪れた。月の美しい夜だった。 「あそこです」 薄暗い屋敷の中を黙々と進んだ先、下男は御簾に囲まれた寝所を指した。御簾の間からはわずかに灯りが漏れており、人影らしきものが映っている。下男が下がったことを確認し、衛士は声をかけた。 「用があって参った。失礼する」 寝所の御簾をわざと大きくはらって中へ入り、衛士は言葉を失った。 暗く煤けた屋敷とはうって変わって、御簾の中は金銀や朱に美しく彩られており、目を奪われた。 それもつかの間、灯が消される。 衛士は闇の中で剣の柄に手をかけた。目が使えぬだけに、腐ったような死臭が鼻についた。 衛士は問うた。 「お前が、美人と言いながらも、男を食らう化け物か」 闇の奥から、微笑みを含んだ美しい声が応えた。 「本当かどうか、近づいて確かめりゃ」 衛士は動かない。近づけばひとたまりもないだろう。 「臭すぎて近づけぬ」 「田舎者には香の匂いは強いであろ。構わず寄ってこりゃ」 「近くに行くにも、暗すぎて足元が見えぬ」 「寝所で灯りを求めるなど、無粋な田舎者のすること。触れあえばわかろう。構わず寄ってこりゃ」 「今までここに来た男はどうした」 「さあて。どの男もここからいなくなったあとは戻らぬから、それは知らぬ」 食ってしまえば、いなくなったことも道理。 「昼はなにをしている」 「休んでおる。夜はお主のような者の相手をするから、眠くてたまらぬのだ。今宵はいい夜になろう。ずっとお主のような者を待っておった」 闇の向こうで、舌なめずりをする音がした。獣のように。 衛士の全身が泡立った。 「さあ。もう待ちきれぬ。もっと寄ってこりゃ。姿を見たいというなら、この手を取ってみりゃれ。怖がることはない」 するり。 衣擦れの音に、それがこちらに寄ってくるのがわかった。 衛士は背中に当たる御簾を払って逃げようとしたが、御簾は糸一本も動かない。 「逃げたくとも無理じゃ。内からは開けられぬ。下男は来ぬ。さっきの威勢はどうした。怖気付いたか。腰が抜けたか。では、こちらからその顔を拝んでやろうぞ。どこから来た田舎者か確かめてやろうぞ。頭から爪の先まで。そして」 闇の奥から、するり、するり、姿の見えないものがどんどん近づいてきた。 「すべてを食ろうてやろうぞ」 衛士の腕を獣のような手が掴み、衛士は叫んだ。 そのとたん、御簾が落ちて月明かりが真横から差し、それを照らした。 破れた布や壊れた枕のある埃まみれの寝所の上で、女の衣を着た巨大な老ヒヒが、叫びながら光を避けるように飛び跳ねた。衛士は己より大きな老ヒヒに斬りかかり、最後に老ヒヒは動かなくなった。 「正体はこいつか」 年老いたヒヒの、その形相。黒とも灰ともつかぬ毛に覆われた、痩せた手足。鬼のように伸びた爪。女物の美しい衣も、術が解けたかのように、虫に食われた穴だらけの無残な古衣になっていた。 下男も衛士の側に立ち、鏡を抱えたまま、化け物の死体を見おろした。 満月の夜の話である。
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Heart
あとがき
夢で知ったお話。
夢の中でもあるため、言語や屋敷の設定は割とインチキだと思われー。
公家とか衛士とか下男とか村人とか、同時に存在してたんでしょうか。平安と江戸がミックスしてる気がしてならない。
Hearts
応援メッセージ
まさに「今昔物語」か「日本霊異記」にある怪異譚のような…恐ろしやおぞましや。
(2017/08/02 21:54
by 今井浄御
)
今っち、そうそうそんな感じー! なかなかな雰囲気でありました〜。
(2017/08/03 09:36
by もとじー
)
ハート2つ、ありがとうございます!!
(2017/08/03 09:36
by もとじー
)
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