TEGAKI
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ゆみょん
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今日から家族が一人増えます
「金も権力も無くて他人より知恵が回るわけでもない、だけど私は女だった。それだけでできることがあった」 母は学者であった。僕の幼少の記憶は少し埃っぽい研究室から始まる。珈琲をこぼした様な陽に焼けた紙、セピア色をした思い出の中で白衣の研究員たちは忙しなく歩き回っていた。子供がそのような場に居るのはふさわしくないはずであるが、誰もが優しく時には菓子までくれた。僕はそのことが嬉しかったし、とりわけ騒いだりすることもなかったから、まあ問題はなかったと思う。学校に行き友人たちの話を聞いても親の職場に連れて行ってもらうような状況自体が稀であったから、なんと恵まれていたことだろうと当時から感じていた。ゲームも習い事もなかったが、話し相手と娯楽には尽きなかった幼少時代であった。 その施設が何の研究をしていたかわからない、けれど母はよく考える女であった。片口でばっさり切りそろえられた黒髪はただ邪魔であったから、の一言で片付くのであろうが、贔屓目に見てもそれがよく似合っていた。タートルネックに白衣をひっかけ、首からは赤色の紐の IDタグを下げている。スカート姿は滅多に見なかった。ある分野の権威というわけでもなく、英語が堪能でしょっちゅう学会に呼ばれていたわけでもない。しかし、コピー用紙に羅列されたデータを真摯に読み取り思索に耽る姿は、研究員としての誇りを背負っていた。 僕が中学に上がるころには母の職場に足を運ぶことはなかったし、別段親の仕事に興味を惹かれることもなかった。母は家庭を蔑ろにしている訳ではなかったが、父の意向、自分の配慮もあり、「主婦」として我が家にいることはなかった。それが嫌ではなかったが、以来母と顔を合わせる回数も減った気がする。だからこうして大学に進むために母と話し合いの場を設けられたのが新鮮である。文理だの私大だのの都合上どうしても話さなくてはならないのだ。 珍しくダイニングテーブルに親子が揃う。この時間帯父親はまだ仕事だ。向かいの席に座った母は、いつしか自分より一回り小さくて、当然であるが歳をとっていた。 かちゃり、とコーヒーカップをかきまわしていた手が止まる。仕事着である白衣がもはやコート代わりと化した姿は、よれよれとして疲れがにじみ出ていた。 「私はね、頭が良い訳でも狂っている訳でもない。ただほんの少し、思考実験が好きだった。それを現実に移して結果が欲しかったの」 双子がいるとする。どんな家庭の双子であれ、一卵性であれば奇妙な一致を見せる。それをシンクロニシティと呼んだりするのだけれどそんなことはどうでもいいわ。 生まれて間もない双子を全く異なる環境下に置く。一方は「普通の」環境に、もう一方は話し言葉と音がない環境に。それぞれに同じ「本」を与える。教育の水準はなるべく同じように。しかし言葉は交わさない。純粋に脳の中で感情形成を見たいから。そのときに情念は、情動はどう動くのだろう、一方との差異は?言葉を持たないけれど同じ「感情」を持つのか、加えて双子特有の心身の動きは?物理的に離れていてもどちらかが引っ張られることがあり得るのか。 「女であった私は子を成すことができた。そしてそれがたまたま双子であった。私は研究を続けたかった」 「おい……」 「心にナイフを持ちなさい、それこそが“狂気”なのだから」 ピンポーン、と間抜けなインターホンが鳴る。 夕暮れの空を鴉が泣き喚く。 目じりの皺が嘘ではないと告げていた。 「研究はあなたが十二歳のときに一旦打ち止め、違うフェーズに入ったわ。このダイニングテーブル……買って十八年経つけれど、椅子は四つあったわね」
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Heart
あとがき
お題:女の凶器 制限時間:30 分 2013年5月23日だった。
Hearts
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ゆみょん
最期に文字になりたい。
(ログと小説)
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(生存確認)
http://31moji.tuna.be/
(GALLERIA)
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ゆみょん
2017/11/27 22:06
全11話
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