TEGAKI
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ゆみょん
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ウォール
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三途の川を文字で記す
竹林に男が一人。時間は夜にでも設定しておけばよい。月は程よく饅頭みたいで、雲がなだれ込むほどに風は強くない。さわさわと葉の擦れる音がする。若造は平べったい大きな石に、忘れ物みたいに置いてあった。幼子のようにぼんやり月を眺めているから首は真上を向いていて、そのまま後ろにひっくり返って頭を打って死ねばいいと思った。けれどそれじゃああんまりな気がしたものだから、せめて反対側に背を蹴り飛ばしてやろうと思って、砂利道を音を立てぬように進んだ。 「人食い虎でも出るかと思ってぼうと待っていたのだが、なんにも来やしない。代わりに来たと思ったら向かいの屋敷の跡取り息子だ」 こいつの背中には目でも付いているのだろうかと疑わしくなった。ちゃらちゃらと髪を伸ばしてうなじが隠れているから、首の付け根にでも目があるのかもしれない。いつか化けの皮を剥いでやろう。 「喪主が夜にほっつき歩いてるほうがどうかしてるだろう。みんな探していた」 「提灯を灯したってあの親父のことだ、酒屋と間違えて引っかけて帰ってくるだろう」 竹林を静かに静かに風が渡る。人食い虎の話をしたからか、草叢からフウウと獣の息がかかってくるような幻聴がする。男が座る石はうるんだように照っていて、水が染みるように辺りへ広がっているように感じた。 「結局読んでもらえなかった」 「何故」 「あんなに教育熱心だった男が、まさか仮名を読めないとは夢にも思わなかったんだ」 自虐的な笑みが口元に浮かんだ。ぞっとした。能面のような男の顔に、影絵を写したようだった。 「反対されていても賛成されていても俺はどうでもよかった。話をしても不毛だから、すべて小説にしたんだ。見ろ、これが俺の本心だ、見ろ、これが母さんの分だ、見ろ、見ろ!ってね。ちまちま書いて借金もして、でも探偵小説は売れたからな、どんな小さな話でも、どんな文芸雑誌の切り抜きでも毎月送りつけてやったんだ。そうしたらこのザマさ」 認めてもらいたかった、憎さは抜けた。じゃあ小説とはなんだったんだろうな。 カンテラを持って来ていれば違ったのだろうか。月灯りはあまりにも青白い。初夏も近いと羽織一枚で来たのだが、足元から水が湧くように冷えてきた。 書き続けなければ、こいつは死ぬのだ。 「…じゃあ、風呂に入ったというのに未だに指に染み込んだ黒いものはなんだ?右の裾に垢みたいに付いた鉛筆跡は?首元に飛んだインクは羊皮紙を引っ掻いたときのガラスペンの名残じゃないのか。 消化しようが昇華しまいが勝手だが、貴様の妄想は間違いなく“文字”になった。本になった。貴様の恐怖も苦しみも全部言葉になったんだ。どれだけ持つかは知らないが、この先七十年はこの世にある」 「はあ?七十とかいう数字はどこから持ち出したんだ」 「俺は百まで生きるからな」 「その前に嫁に刺されて死なないようにな」 馬鹿馬鹿しい、そう呟いて噴きだした。 普段はこ洒落た着物を好むこの男も、明日は喪服を着る。
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Heart
あとがき
お題:苦しみの小説の書き方 制限時間:30 分 2013年5月27日だった。手前はこんなテーマばっかりかい。
Hearts
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ゆみょん
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(生存確認)
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創作断片
ゆみょん
2017/11/27 22:06
全11話
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