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⑤灰の兵士/藍の王子 (1)
【注意書き】 ※シリアスです 書きたいことが最優先でその為に無理矢理辻褄を合わせています(合っているとは言っていない) 今まで以上に滅茶苦茶なご都合展開になっています 階級とか上下関係とかタイムスケジュールとか色々だいぶ滅茶苦茶です 本当に書きたい都合が最優先の超絶不親切設計です 【注意書きここまで】 溺れる夢を見た 目の前に見える手を 助けて、って掴もうとしたんだけど あの手は 自分を突き飛ばした手か 自分を助けてくれる手か どっちなんだろう 黒曜の国が翡翠の国王を招いた舞踏会から数ヶ月が経っていた 黒曜の王マキジは相変わらず翡翠の国と密に連絡を取り合いラブコールを送っているようだが、マキジの動向の詳細を知る者は上層部のごくごく一部だ 末端の、特に兵士の卵である訓練生は、配属先が決まったばかりでまずは自分の仕事を覚えることで精一杯だ 訓練生は毎日定められた基礎訓練を終えるとそれぞれ配属された持ち場へと向かい、各々が担当教官から命じられた訓練や座学、作業などの業務に取り組む 国のため自分の将来のためなど夢を抱いている者や、家族に言われて仕方なくなどと志願理由は様々である 訓練生が取り組む様々な業務の中の一つに武器の管理がある と言っても卵の訓練生が担当するのは定められた武器の数が揃っているかどうかの確認とそれを綺麗に磨き上げる程度の作業ではあるが、武器の手入れの方法と扱い方を学ぶための大事な作業でもある 黒曜の国には複数の武器庫があり、各武器庫につき2人ずつ配属される決まりとなっている その一つである第一武器庫にて、2人の青年が今日もせっせと業務に勤しんでいた 『ロク、それが終わったら次はこっちの棚のを磨こう』 一人の青年が棚の間から顔を出し、作業台で武器を磨く相棒へ声をかけた しかし、ロク、と声をかけられた青年は手を止め、磨いていた武器を作業台へ置くと頬杖をつきため息を吐く 『…なぁ、ムツ』 『何?』 『毎日毎日、訓練ですら使いもしない武器の手入れなんかさせられてさ、こんなことして意味あると思う?』 ロクにムツと呼びかけられた青年は内心(またその話かぁ…)と思いながら武器が並ぶ棚からこれから始まるであろう相棒の不満を受け止めるために作業台へ向かう 『使いはしなくても、数が足りなかったり、壊れていたりしたら大変だよ それを毎日確認するのが仕事だって教官もおっしゃっていたし…』 『でも俺、強くなりたくて訓練生になったんだ なのに配属先は武器庫で一日中武器磨いてろなんてひどいと思わない? ムツだって第一志望は第一部隊だったって残念がってたじゃないか』 第一部隊とは 訓練生の配属先を決める際に行う適性試験で定められた厳しい基準をクリアし、優秀な成績を収めた者たちが配属される部隊だ 黒曜の国の上層部はこの第一部隊出身の者が多く、将来の為に志願する者は多い 『それは、そうだけど… …所詮その程度の実力だったってことだよ…』 一ヶ月ほど前、ロクもムツも第一部隊を志望して適正試験へ挑んだようだが、2人とも基準をクリアできなかったようだ その共通点のお陰(?)で武器庫への配属が決まった当時はすぐに意気投合出来て今では教官が所用で席を空けている間は仲良く無駄話をしながら業務を行っている 自分が振った話題のせいで落ち込む相棒を励まそうとロクは磨いていた短剣を差し出した 『そうだ、ムツ、これ持てよ』 『えっ!?』 『教官は他の武器庫の奴らの見回りでしばらく戻らないだろうし俺らは俺らで自主練するんだ』 『だ、駄目だよ! もしバレたりなんてしたらどうなるか…』 『使ったら俺らがピカピカに磨いてやればバレないさ そう言う腕ならこの一ヶ月で嫌ってほど鍛えられたからな』 『それでも、やっぱり教官から正式な指導を受けないと、実践じゃ何の役にも立たないよ…! それにこんな危ない武器がたくさんあるところで事故が起きたりなんてしたら!』 『やらないよりはマシだろ? こうしてる間にも他の奴らとどんどん差が開いていってるんだぜ?』 『…………』 あらゆる意味で危ない提案をムツは了承するわけに行かず、かと言って口が達者なロクにこれ以上言い返すことも出来ずムツはロクをじっと睨む やがてその視線に根負けしたロクは差し出した短剣を作業台へ戻し、 『……わかった、ごめん、俺が悪かったよ睨むなって ムツって時々頑固なとこあるよなー』 『ロクが無茶なこと言ってるんだよ』 『だって強くなりたいし』 『でも、駄目だよ』 『……分かった』 諫めるムツにロクは不服そうに唇を尖らせる ロクの『強くなりたい』はこれまでも何度か耳にしていたが、夢を語ると言うよりはなんだか焦っているようにも思える言い方をムツはいつも不思議に思っていた 『ロクはどうしてそんなに強くなりたいの?』 ぽつりと漏れた疑問 ムツも第一部隊を志願した身であったが、残念ながら叶うことなく武器庫への配属となった その悔しさに共感は出来るのだが、強くなりたいという目標を度々口にするロクに対してムツは純粋に興味を惹かれていた ロクは暫く視線を彷徨わせ返答する 『…見返したいやつらが…いるって言うか…』 『2人とも何を無駄話している、真面目に取り組め!』 誰を、と尋ねようとしたところで教官が戻ってきてしまい、ムツは結局聞けず仕舞いとなった *** 訓練生たちは寮で生活を共にしており、食事時刻なども定められている 夕食時 ロクとムツが自分の食事を乗せたトレーを持って空席を探していると、同期の訓練生たちが何やらひそひそと話し合いを行っていた 『お前ら何やってんの?』 『おお、ロク!お前も来ねぇか?』 『?』 同期の仲間たちはロクとムツの肩を組むようにして二人を自分たちのテーブルへ引き入れる 『第一部隊の奴ら、消灯時間後に教官に連れられて特別に城の舞踏会へ行くらしいぜ』 『へぇ…』 『幾らなんでもズルくね?』 『だからさ、俺らも抜け出さねぇ?』 『『え?』』 まだまだ遊びたい盛りの若者たちが暮らす寮 仲間たちの悪巧みにロクとムツは同時に反応する 『ここの生活も慣れてきたし、そろそろちょっと刺激が欲しいじゃん?』 『俺らだってキッツい基礎訓練は毎日やってるんだぜ、日頃の成果をここで活かすんだよ』 仲間たちが楽しそうに話し合う計画を静かに聞いていた二人だったが 『…だ、駄目だよ…』 その楽しげな雰囲気に水を差したのはムツだった 『お城の舞踏会には偉い人たちがたくさんいるんだよ? 警備だって厳重に決まってる…バレないわけないよ』 『別にちょっと覗くだけだし』 『もし見つかったら怒られるだけじゃ済まないかもしれないよ! ここを追い出されるかもしれない…いや、もしかしたら捕まって牢に入れられるかも…』 『ハハハ、牢だってさ』 『あるわけないだろ』 『でも駄目だよ…!』 『嫌ならムツは来るなよ』 『確かにお前はオドオドしてるしすぐ捕まるかもなー』 『じゃ、ムツはいらねーわ ロクお前は来るよな?』 『そ、そう言う問題じゃ…!』 ノリの悪いムツを面白くないと判断した仲間たちは止めるムツの声を適当にあしらうと、今度は黙って話を聞いていたロクの方へ話を振った ムツはロクが昼間に武器庫で自主練の提案をした件を思い出し、ロクのことを、バレなければ少しくらいならルールを外れても気にしない人間だと薄々感じていたムツは、まさか君も行きたいだなんて言わないよね?と疑いの視線を向ける 『俺パス』 仲間たちとムツからの視線を一斉に浴びたロクは簡潔に言い放ち、こう続けた 『ムツ、あっちのテーブル空いたから行こうぜ』 そしてその言葉に仲間たちが反応を返す前にロクは席を立ち、少し離れたテーブルへと移動した てっきりロクも行きたがると思い込んでいたムツはロクを止める気満々でいたために少し意外に思ってしまったが、すぐ我に返り、同じく呆気に取られていた仲間たちへ最後にもう一度『とにかく、抜け出そうなんて絶対駄目だよ』と釘を刺しロクのテーブルへと向かった ロクはムツを待つことなく既にパンを囓っている 少し遅れて席へ着いたムツをロクは見ようともしない 食事中なのだから特に表情を変えたりする必要は無いのだが、無表情で黙々と食べる様子に彼は機嫌が悪いのだろうかと言う印象を受ける 『…ロクも、行きたがるかと思ってた』 ぽつりと漏らすとロクはやっと一瞬ムツを見たがその視線はすぐに外れ 『…あそこには俺の親父も呼ばれてるんだ とっ捕まったりして格好悪い所は見せられない』 ややぶっきらぼうに言い放ち、食事へ戻る 『…へ、へぇ…ロクのお父さん…凄いね、舞踏会に呼ばれるだなんて』 『………まぁな』 家族の話は初耳だった ロクとムツはまだ知り合って一ヶ月だが毎日一緒に業務を行い、その合間で下らない話をしていく内に仲良くなっていった その日々を通してムツの中で無意識にロクとはこう言う人間だと感じ取ったイメージ像のようなものが出来上がっていたのだが 先ほどの悪い誘いを断ったり(止めるつもりでいたのでそれはそれで良いのだが)、 家族のことを褒めているのにそれを自慢したり嬉しそうにしたりすることもなくなんだか素っ気なかったり、 何故だか機嫌が悪そうだったり、 それら全ての理由がムツには全く分からなかったり (そう言えば、ロクのこと何も知らないな) ふと頭に過ぎったと同時にじゃあ何を知っているだろうと今までのことが思い起こされる 自分と同じ部隊を志望していて 強くなりたくて それから…― 『…もしかして、 昼間言ってた見返したい人ってお父さんのこと?』 『……』 『……』 幾ら仲が良いと言っても四六時中会話を交わしているわけではない 時には偶然会話が途切れ沈黙が流れることもあるが、お互いそれが気まずいと感じたことは無かった そして今 周囲は食事を楽しむ訓練生でとても賑わっているのに、ムツはまるで自分が一口大にちぎるパンの音すらも響きそうなほどの気まずく重い沈黙を感じていた ロクの様子からきっと、見返したい人と言うのは父親で間違いないのだろう それならそれでいつもなら『それじゃあお父さんに格好悪いとこ見せないように昼間みたいな無茶なこと言うのやめなよ』なんて言えるのだが、今のロクから発せられる雰囲気を“なんとなく”感じ取ったムツはその冗談を言うことが出来なかった *** 夜、寮の消灯時間 文字通り寮内の明かりが全て消え全員が床へ就いたであろう頃 ずらりと並ぶ訓練生たちの部屋の扉の中の一つ、ロクとムツのネームプレートが下げられた扉が静かにゆっくりと開いていく 『…、…』 『!』 闇夜に融けてしまいそうな濃藍のコートを身に纏い、音を立てないよう慎重に扉を開く背後から、もぞっと布が擦れる音が聞こえ思わず体がビクつき慌てて振り返る 『……』 『……』 …起こしてしまっただろうか 暗闇に慣れつつある瞳を凝らし、何も知らない相棒が眠るベッドをじいっと見つめる かろうじて見える体の輪郭が起き上がりそうな気配は無い 耳を澄ませばすーすーと寝息が聞こえる 寝返りを打っただけのようだ (…ごめん) 先ほどの食堂でのやり取りを思い出し心の中でそう呟くと、改めて息を殺し、扉も床も一切の音を出さないよう細心の注意を払い部屋から出る 柱の陰に隠れながら、誰にも見つかることなく寮を抜け出した そして月明かりを避けるように茂みへ入り最短ルートで目的地を目指す 幸い雪は降っていなかったが、サクサクと雪を踏みしめる音が警備を担う護衛部隊の兵士に勘付かれやしないかと慎重になりながら茂みを抜け、城内へ続く裏口へ辿り着く 隠し持っていた合い鍵で中へ入ると… 『!?』 一刻も早く目的地へ辿り着きたい焦りが油断に繋がった 前もって人の出入りが少ない裏口を探し選んでいたこともあり、誰も居ないと思い込んでいたそこには今夜の舞踏会で使用されるであろう食器類をカートに乗せて運ぶ城のメイドが居たのだ 『きゃあっ!』 鉢合わせたメイドは驚いて声を上げる 『…す、昴様…!?』 メイドが驚くのも無理はない 何故なら、この国の六番目の王子が突如人気の無い城の裏口から現れたのだから ―…昴が名前を偽って適性試験を受けようと決めたのは数ヶ月前のことだ 翡翠の国王を招いて開かれた舞踏会の後のこと この黒曜の国の王であり実の父親でもあるマキジに心の隙を突かれ『自分を持て』と警告を受けたあの夜 このまま王に命じられるがまま従い続けるか、抗うか 昴は悩んだが、出した答えはどちらでもなかった どちらが正解なのか どうしたって王の姿がちらついて仕方がない もういっそ、王の目から離れてしまいたい …そうだ、離れてしまえばいいのだ、と けれどどうやって? 例えば城を出ると公言してしまうと結局一緒に肩書きが付いて回って意味がない 名前とそれに付随する身分も後ろにいる王も取り払った自分はどんな自分か見てみたい それが王の言う“自分”と言うものではないのだろうか しかし昴には秘密裏に融通を利かせることが出来る権力も協力してくれるような人間も居ない そこで寮のある訓練生に目をつけた ここなら城を出ずとも王の目から離れた自分を見つめることが出来て訓練だって受けられる そうして心身ともに強くなって、認めて貰いたい 誰の手も借りず、自分で決めて、自分で強くなることが出来たなら 今度こそ、偶然なんかではなく、認められた者として向き合って貰いたい そうして昴はこっそりと適性試験を受けた 自分の実力を試したいこともあり第一部隊を志願したが敢えなく落選 試験の結果を具体的な数値として示され打ちひしがれた上に武器庫への配属となってしまったが、仕事を与えられ、評価され、上達していく手応えを実感できることは楽しくて仕方がなかった 対等に話せる存在も出来た 城で働く使用人たちは皆仕事熱心で優しく、もちろん気軽に話せる人間もいるのだが、やはり王子と使用人と言う壁は薄いが確かに存在していた たくさんいる兄弟妹(きょうだい)も、五人の兄と自分とで扱いの差を明確に付けられていることはよく知っていたし、弟と妹たちも自分たちに振られている“順番”を気にしている様子も感じていた だから上も下もなく特に意味のない会話を無責任に交わせる存在は何より新鮮で楽しかった そんな毎日を過ごしていたところに、舞踏会の報せが耳に入る 数ヶ月前に翡翠の国王と朱の王子を招いて以来、久々の舞踏会だ これには昴も出席しなければならない これまでも休日など隙を見て城と寮とを行き来していたが、今回の舞踏会は夜、それも消灯時間後に抜け出さなくてはならなかった そうして昴は夜間に寮を抜け出す算段を立てていたのだ しかし裏口から入ったところでメイドと鉢合わせしてしまい、昴は慌てて言い訳を考える 『…昴様…いったいこのような所で何を…?』 『ぁ…えーと…部屋の窓から、ハンカチを落としてしまって… こうして探しに出たのですが…どうやらそのまま風に飛ばされて、どこかへ行ってしまったようです…』 『は、はぁ…』 ポカンとしているメイドの表情に、流石に無理があるか…?と、昴は心臓をバクバクさせながら反応を待った 『そうでしたか…そう言ったことはお申しつけ下されば私どもがすぐに探しに出て代わりの物もご用意致しましたのに…』 『いや、大切な頂き物なので、無くしたことを知られたくなかったんです 驚かせてしまい申し訳ありません…では、失礼します…!』 文字通り逃げるようにその場を去り、城の中へ入ってしまえば後は誰に見られても構わないと慌てて本来の自室へ戻り衣服を着替え、舞踏会が行われている大広間へと向かう 開始時刻から遅れての到着だったが、会場の賑わいで誰も気づいていないのか、昴の遅刻を咎める者は誰も居なかった ホッと胸を撫で下ろしながらそのまままるで初めからそこに居たかのように振る舞っていると 『昴様 王様からの御命令です』 『…はい』 王の執事から声がかかり、広間の中央へ向かう 王曰く、思いついた際に偶然そこにいたと言うだけで与えられた、意味のない戦いごっこの命令 けれど今の昴にとっては違う ―…俺らだってキッツい基礎訓練は毎日やってるんだぜ 命令に意味は無くとも、自分が成長できているかどうかを確認できる場となった 昴は周囲を見渡すが、相手はまだ指名されていないようだ 誰だろう、と思っていたところで王が口を開く 『相手は…そうそう、今夜は第一部隊の訓練生が来てただろ 誰か一人、出てきてみない?』 『…!』 昴と、招待客より一歩引いた位置に居た訓練生たちに緊張が走る 『ま、そんな緊張しなくても負けたら訓練生クビで~すとか、勝ったら王子様になれま~すとか、そんなことにはならないからさ~ 将来守る側と守られる側で今の内に仲良くなっといてもいーんじゃない?』 『……』 第一部隊の訓練生とは、まだ顔を合わせたことはない だからきっと気付かれることも無いはずだ… 昴がそう自分に言い聞かせていると、一人の訓練生が代表としておずおずと現れた 自分は落ちてしまった試験をクリアした者たちの一人だ 元々の実力もさることながら、他の訓練生より何倍も過酷な訓練を受け、自分とは比べものにならないくらい腕が立つに違いない きっとまた、負けてしまう…先日の朱の王子と闘った時のように …いやしかし、あの時のように呆気なくやられて場を凍らせるわけにはいかない もしも自分が成長出来ていたら、負けは負けでもその結末だけは回避できるはず それによく見ると、目の前の訓練生はとても緊張している こちらへ歩み寄る動きも表情も何もかも硬いように見え、微かに震えている 想定外の命令と周囲の目に本来の調子を出せないのでは? そして自分は強くはない、が、この場には慣れている (もしかしたら…) 目の前の訓練生の様子を感じ取りながら、勝つべきか負けるべきか、勝てそうか負けそうか、そんな今までの算段ではなく、 昴は… ―…その時だった 『キャーッ!!』 今まさに始まろうとした瞬間、自分たちを見つめる人だかりの中から女性の悲鳴が響いた 側にいた護衛部隊の兵士がすぐに駆けつける ―…如何なさいましたか ―…い、今、窓の外に…怪しげな男たちが… ―…何ですって!? ―…外だ!すぐに調べろ! ―…居たぞ!あそこだ! ―…逃がすな!追え!! 『…?』 突然のただならぬ雰囲気に招待客は不安でざわつきはじめる (…怪しげな…男たち…?) 当然、余興など始められるわけもなく困惑や不安が渦巻く大広間で昴はハッと気づいた (…まさか…) 食堂で聞いた同期の訓練生たちの悪巧み 昴とは違うタイミングで彼らも本当に抜け出してしまっていたのだろうか? 外では兵士たちの騒ぐ声が聞こえる 彼らがもしも捕らえられてしまったら…! ―…牢へ入れられるかもしれない ―…ここを追い出されるかもしれない 昴は騒ぎの方向へ踏み出した もしも本当に不審者が彼らなのだとしたら、例えば自分が彼らを招いたと話せば最悪の事態は免れるかもしれない …けれど それを話すと言うことは、昴が訓練生の中に紛れていることを明かさなければならないと言うこと …そうしたらきっと、あの場所には居られなくなる 『…!』 その考えが頭に過ぎった瞬間、昴は足を止めてしまう 『……』 あそこは、誰からも色眼鏡で見られることなく、役割を与えられ、評価され、対等に話し合え、励まし合い、成長できる場所 それにまだ…まだ、自分がちゃんと成長できているのかどうか何一つ確かめられていない 今ここであの場所を手放してしまったら また、あの終わりの見えない日々がやってくる 自分だけが広間に取り残されている、あの感覚 『…ぁ…』 踏み出そうとする気持ちと 踏み止まろうとする気持ちがぶつかり、足が震える ―…彼らの自業自得ではないのか ―…彼らの行動に悪意がないことを知っている ―…彼らとは特別に仲が良いわけではない ―…彼らに科される罰が自分の証言で軽くなるかもしれない 昴の頭に答えが交互に巡っていたが、本当はその中心で揺らがず存在する答えが確かにあった それなのに、浮かんでしまった綺麗な答えが自分を責める 『…………』 上手く息が出来ない 溺れる夢を思い出した 目の前に見える手を 助けて、って掴もうとしたんだけど あの手は 自分を突き飛ばした手か 自分を助けてくれる手か どっちなんだろう 分からないまま沈んで行く 昴は、庇うことも見捨てることも出来ず立ち尽くし、出来れば兵士たちの追う不審者が、彼らとは何の関係もない人間であってほしいと願っていた 【続く】
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Heart
あとがき
決められない・割り切れない・情けない男、昴
果たして成長できるのか
溺れる夢はググッてみたら良い夢にも悪い夢にもなるそうですよ
Hearts
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後になっていたたまれなくなったもの、
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